化学無機栄養生物の二酸化炭素固定[chemolithotroph, carbon dioxide fixation]

  無機栄養源だけの暗所で生育する生物が発見され(Winogradsky1891),エネルギー源となる無機化学反応の異なる様々な化学無機栄養生物が記載された.しかし,炭素源のCO2固定反応は不明のままで,わずかに従属栄養生物で見いだされたピルビン酸からC4ジカルボン酸を生成する二酸化炭素固定反応(Wood-Werkman 反応1938)の関与が想定された.
 1.還元的ペントースリン酸回路(RPP回路):カルビンらが光合成14CO2固定中間産物を解析してRPP回路を解明すると,同じ手法で硫黄酸化細菌ThiobacillusでもRPP回路の存在が示され(Aubert,Milhaudら1956),酵素学的裏づけも行われた(Trudinger 1956).続いて水素酸化細菌,アンモニア酸化細菌,亜硝酸酸化細菌,鉄酸化細菌でもRPP回路をもつ種が確認された.ただし,植物に比べてルビスコ(Rubisco)サブユニット構成や他の酵素遺伝子に変異がみられる.この回路独自の鍵酵素はRubiscoとリブロース-5-リン酸キナーゼである.
 2.還元的TCA回路:はじめ,緑色硫黄細菌Chlorobiumの光合成炭素同化経路として発見されたが,好熱性水素酸化細菌Hydrogenobacter thermophilusAquifex pyrophilusでも確認された(Shibaら1985, Huberら1992).水素酸化により生成する還元物質とATPによりTCA回路を逆転してCO2固定を行い,生成したアセチルCoAを炭素源とする.回路の鍵酵素はATP-クエン酸リアーゼと2-オキソグルタル酸シンターゼである.また,硫酸還元古細菌Thermoproteus neutrophilusにもあり,原始的な炭素同化経路と思われる.
 3.還元的アセチルCoA経路:C1-C1縮合による非回路型で(Woodsら1986),鍵酵素は一酸化炭素デヒドロゲナーゼ(CMDH)とコリノイド酵素(ビタミンB12, Co, Fe-Sを含む),アセチルCoA合成酵素である.2分子のCO2は別経路で還元されてCO基およびCH3基となり,アセチルCoA合成酵素上で両者が結合してアセチルCoAを生成する.Clostridium thermoaceticumなど嫌気性酢酸生成細菌ではアセチルCoAの一部が酢酸になる.Methanobacterium thermoautotrophicumなどのメタン生成古細菌ではCO2をメタノフラン,テトラヒドロメタノプテリンなど独自のC1担体に結合したままH2で次々に還元してCH4を放出するが,途中でCH3基の一部がコリノイド酵素を経てアセチルCoA生成に用いられる.

carbon dioxide fixation.png

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:40