塩耐性[salinity tolerance, salt tolerance]

 細胞や個体が高塩濃度環境下でも代謝機能や恒常性を維持したり,場合によっては生育できる性質をさす.耐塩性と同義.細胞レベルの塩耐性は,事実上は原形質機能の塩ストレスに対する耐性をさす.原形質膜や液胞膜が有する能動イオン輸送系は,細胞内に侵入した塩類を液胞に隔離したり細胞外に排出することで,原形質機能に対する塩集積の影響を低下させる.液胞に隔離された塩や細胞基質に蓄積される浸透圧調整物質は,細胞内の水ポテンシャルを細胞外のそれより低下させるので,細胞は塩による吸水阻害に適応できる.適合溶質の蓄積はタンパク質・生体膜を安定化し,代謝機能の維持に寄与する.また,塩ストレスにより派生する活性酸素種の毒性から保護する消去機能が誘導される.塩ストレスに発現誘導されるストレスタンパク質の多くは,これらの適応現象を誘導するシグナル伝達機構に関与したり,直接的あるいは間接的に適応過程に機能するものであると考えられる.光合成機能の塩耐性は,上記の機構で細胞基質から塩を除くことで葉緑体への塩の流入量を低下させるとともに,適合溶質の蓄積がチラコイド膜系タンパク質複合体や二酸化炭素固定系酵素を安定化し塩失活から防ぐこと,さらに活性酸素種消去系の誘導などが重要な役割を担うと考えられる.
 植物が塩ストレスに曝されると,個体・器官レベルでは根を発達させることで水分確保につとめたり,葉クチクラ層の肥層化などにより蒸散による水分の損失を抑えて適応する.一部の塩生植物では多肉葉を形成したり,過剰な塩分を排出する特殊化した器官(塩類腺,褒状毛)を発達させることでも塩耐性を高めている.また,根から侵入した塩の地上部への移行を制御する機構も塩耐性には重要と考えられる.塩耐性機構の基盤である塩の選択的隔離・排出や適合溶質・浸透圧調整物質の合成はエネルギー消費や同化産物の流用を伴うため,多くの場合,植物の成長は停滞する.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:27