核磁気共鳴[nuclear magnetic resonance (NMR)]

 原子核は陽子と中性子がともに偶数である原子核以外は核スピンを有しており,これに基づく核磁性を示す.したがって,原子核を大きな外部磁場のもとに置くと,核スピンと外部磁場の相互作用により,原子核は異なったエネルギーとなり,その核スピンの回転の向きによりとびとびの(量子化された)エネルギー状態をとる.この量子化されたエネルギー状態にある原子核に外部から電磁波を照射すると,そのエネルギーが量子化された状態のエネルギー差にちょうど等しいときに共鳴が起こり,エネルギーがやり取りされ,吸収が起こる.これが共鳴現象であり,核磁気共鳴と呼ばれる.原子核は電子雲の中にあり,電子雲の状態は原子の結合状態(分子構造)によって決まることから,共鳴エネルギーの微小(ppm)な変化から原子の結合状態や数がわかり,これにより分子構造が解析できる.さらに,電子雲を通した原子核と原子核の相互作用,空間を通した直接の原子の相互作用なども原子が存在する分子の構造,電子状態,動的状態に依存するので,核磁気共鳴から分子の立体構造,運動性などの情報も得られる.近年では,電磁波をパルス状に照射して,そのとき観測される時間に依存する電磁波の自由誘導減衰(FID)をフーリエ変換(FT変換)することにより,周波数領域のスペクトルに変換し, NMRスペクトルを求めるFT NMR が普及した.さらには,照射する電磁波のパルスを巧みに組み合わせ,上述の相互作用を二次元あるいは多次元に分解したり,原子核の相互作用の相関を観測できるようにした,多次元FT NMR も普及している.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:32