液胞[vacuole]

  植物や酵母など真核生物の細胞内にある酸性オルガネラ(小器官)の一つである.植物の中心液胞の特徴はそのサイズで,成熟した植物細胞では細胞体積の90%以上を占める.液胞内には,糖,有機酸,無機イオン,二次代謝産物,タンパク質,酵素など様々な物質が集積していて,その多機能性が知られている.液胞内容物は植物種や組織,生理条件で異なるが,光合成器官での光合成産物の液胞への集積に注目すると,光合成の盛んな昼間にショ糖を一時的に蓄えたり,CAM植物で夜間にリンゴ酸を蓄えることが知られている.一方,果実などの貯蔵器官では,転流糖に由来する糖や有機酸を液胞内に高濃度に蓄積する.液胞に蓄えられる無機イオンとしてK+,Cl-,Ca2+,SO42-,NO3-,無機リン酸イオン,などの無機栄養素が知られている.一方,液胞はNa+や Cd2+など有害な無機イオンや過剰なZn2+を集積する能力も持ち,それらを細胞質から隔離する役割を担っている.特に塩生植物ではNa+が多く蓄積する.液胞に蓄積される二次代謝産物としてはアントシアニンなどが知られる.
  これらの物質の集積には,液胞膜輸送体による膜輸送の経路と,液胞前区画(pre vacuolar compartment, PVC)など細胞内オルガネラが液胞に膜融合する経路の2つがある.膜輸送経路では,液胞膜に存在する一次能動輸送体(液胞型プロトンATPaseと液胞型ピロホスファターゼ)が液胞を酸性化する.この結果生じる液胞膜を介したpH差(2〜3)と膜電位(20〜40mV)が多くの二次輸送を可能にし,細胞質環境の恒常性を維持している.
  液胞への糖や無機イオンの集積は,浸透圧差に従う液胞内への水の移動を促進し,細胞の浸透圧調節の機能をもつ.液胞膜には水チャネルも多く存在し,水の移動を促進している.また,液胞は細胞体積の大部分を占めるため,水流入によって液胞が膨らもうとする圧力(膨圧)が植物細胞を変形させる原動力となる.液胞の膨圧は,栄養成長時の細胞伸長,花粉管などの先端成長,気孔の開閉などに寄与している.
  液胞はプロテアーゼ,ホスファターゼなど種々の分解酵素の集積場所でもある.これらの分解酵素は細胞の自食作用(オートファジー)と連携して,細胞構成成分のリサイクルや異物の無毒化を行う.また,微生物の侵入や動物による食害時に,防御物質を生成するためあらかじめ液胞に蓄えられる.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:14