無放射遷移のエネルギーギャップ則[energy gaplaw in non-radiative transition]

  無放射遷移の速さは,同じエネルギーレベルにある電子の始状態と終状態に対する振動の波動関数の重なりの項(これをフランク-コンドン因子という)と2つの電子状態のポテンシャル面間を移動する速度の積で決まる.内部転換と項間交差では,2つの状態のポテンシャル面を移動する確率が大きく異なる.前者はスピンが保存された遷移であるので比較的容易に起こるのに対し,後者はスピンが反転する遷移であるので,スピン保存の遷移に比べて103~106倍くらい遅くなる.他方,フランク-コンドン因子は両者で同じ法則に従う.無放射遷移の特徴は,始状態の最低エネルギーレベルと終状態の最低エネルギーレベルの差にれをエネルギーギャップという)が非常に大きく,かつ始状態と終状態の分子構造の差が小さいことである.このことにより,始状態と終状態のポテンシャルエネルギーの交差面(遷移状態)がエネルギーの非常に大きなところにできて,熱励起で遷移状態に到達することがほとんど不可能になる.そこで多くの場合,始状態での分子振動の零点運動を利用したトンネル効果で終状態に抜け出る道が選ばれる.たくさんの振動モードが協力してトンネル遷移に加わる.その結果,無放射遷移速度はエネルギーギャップの大きさに対して指数関数的に減衰する公式が得られる.これはエンゲルマンとジョルトナーのエネルギーギャップ則と呼ばれる.このモデルによると,無放射遷移を起こす原動力は始状態の分子振動の零点運動であるので,温度には因らない.実験的に多くの場合,無放射遷移速度はあまり温度に依らないので,定性的に理論は正しいといえる.しかし,タンパク質の表面近くの芳香族残基などの蛍光強度が温度によって影響を受ける場合もある.そのときには,無放射遷移に対する媒質の運動のダイナミカルな効果などを考慮する必要がある


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:39