発酵[fermentation]

 嫌気条件下において,植物は主にピルビン酸を初期基質として用いる3つの経路(アルコール発酵系,乳酸発酵系,アラニン合成系)を働かせる.
 アルコール発酵では,ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)による触媒でピルビン酸をアセトアルデヒドへ変換,その後,アルコール脱水素酵素(ADH)による触媒でアセトアルデヒドがエタノールに変換され,同時にNADHからのNAD+の再生が起こる.酸化的リン酸化の不活化で生じるNADH/NAD+サイクルを維持できるため,アルコール発酵の最も重要な役割としてこのNAD+の再生があげられる.シロイヌナズナではPDC活性を4つの遺伝子がコードしており,PDC1はメインとなる遺伝子であり根で発現することが分かっている.一方,PDC2は葉と根の両方で発現することが分かっている.ADHにおいては,ADH1遺伝子が知られており,シロイヌナズナではADHの誘導はROP GTPaseの活性によりコントロールされている.
 乳酸発酵では,乳酸脱水素酵素がNADHを用いてピルビン酸を乳酸に還元しNAD+を再生する.
 アラニン合成系でのアラニンとオキソグルタル酸を介したピルビン酸からのコハク酸への迂回経路は,上記の発酵系に加えもう一つの重要な系といえる.AlaAT(ALT)は,ピルビン酸とグルタミン酸をアラニンと2-オキソグルタル酸に触媒する酵素で,嫌気状態になると強くアップレギュレートされる.2-オキソグルタル酸は,TCA回路の酵素であるオキソグルタル酸デヒロドゲナーゼにより触媒され,NAD+を用いてコハク酸とATPに変換される.この時必要となるNAD+は,TCA回路の酵素であるNAD-リンゴ酸デヒドロゲナーゼオキサロ酢酸からリンゴ酸への変換を触媒する際にNADHが酸化されることで供給される.この反応は通常のTCA回路の反応系とは逆の系を通る(好気条件下では逆方向のリンゴ酸からオキサロ酢酸への変換が起きる).生じたリンゴ酸NAD-リンゴ酸酵素を介してピルビン酸になるか,フマラーゼとNAD-リンゴ酸デヒドロゲナーゼを介してコハク酸へと代謝される.嫌気条件下で酸化的リン酸化が減損した際に,通常のTCA回路とこの非循環的な経路とを並列進行することで,TCA回路でのATP生産が最小限に最適化される中,通常の2倍のATPを生産できる.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:03