紫外線障害[ultraviolet damage]

  DNAやタンパク質をはじめとする生体物質の多くは紫外線(特にUV-C領域の紫外線)を吸収する.紫外域の光の光量子のエネルギーは大きいため,紫外線を吸収した物質は損傷を受けやすい.地球上に到達する太陽光のなかで最も波長の短い領域であるUV-Bも生体物質に吸収されるため生物に対して害作用がある.紫外線障害のなかで最も重大なのはDNAの損傷である.DNAはその吸収スペクトルのピークがUV-C波長域内にあるためUV-Cの影響を強く受けるが, UV-Bによっても損傷を被る. DNAが損傷を受けて生じる生成物としてはDNAの同一鎖上の隣り合ったピリミジンの間に形成するピリミジン二量体がほとんどで,特にシクロブタン型ピリミジン二量体が最も多い.他に, (6,4)光産物やこれに315 nm 付近の波長の紫外線が照射されて生成するデュワー(Dewer)型光産物などが知られている.DNAが損傷を受けると細胞分裂や細胞成長が阻害される.
 植物は様々な紫外線耐性機構をもっているため,太陽光に含まれる紫外線が常に植物個体の生育を阻害するとは限らないが,培養細胞などを用いた実験ではUV-B照射により顕著な細胞分裂阻害が観察される.また,実験室内における紫外線照射実験では多くの植物の成長が阻害される.UV-Bによる成長阻害のしくみはまだ解明されていないが, UV-Bが植物の光合成を阻害すること,植物ホルモンを失活させることなどが報告されている.光合成の光化学系Ⅱは紫外線に対して比較的感受性が高く,UV-BによりD1タンパク質が破壊されることが知られている.一方,紫外線照射により細胞内に活性酸素種が生成することが知られており,紫外線障害の一部は活性酸素種の毒性によると考えられている.

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:06