褐藻 [brown algae, phaeophyceans]

 コンブ,ワカメ,ヒジキ,モズクなどよく知られた海藻を含む不等毛植物の一群.全て多細胞性であり,長さ60 m以上に達するものもいる.葉緑体は黄褐色を呈し,形や数は多様.色素体ERの外膜はときに核膜と広く連続する.ガードルラメラをもち,色素体核様体はその内縁に沿ってリング状に存在する.クロロフィルはac1c2 をもち,カロテノイドとしてフコキサンチンビオラキサンチンゼアキサンチンβ-カロテンなどをもつ.多くはピレノイドを欠くが,埋没型または突出型のピレノイドをもつものもいる.

 単純な糸状のものから器官・組織分化(ときに篩管様構造)を伴う複雑な藻体を形成するものまである.原形質連絡をもつ.細胞壁はアルギン酸などを含む粘質多糖中に包埋されたセルロースからなる.ときに多量のマンニトールやスクロース、グリセロールのような低分子炭水化物を含み,おそらく浸透圧調節や凍結防御などに用いている.またときにフロロタンニンを含み,おそらく被食防御や紫外線防御に働いている.遊泳細胞(遊走子,配偶子)はふつう細胞腹面から生じて前後に伸びる2本の鞭毛をもつ.後鞭毛の基部に緑色自家蛍光を伴う鞭毛膨潤部が存在し,葉緑体中の眼点と相対している.基本的に配偶体と胞子体の間で世代交代を行うが(異形または同形),複相世代のみの生活環をもつものもいる(ヒバマタ目).基本的に複子嚢で配偶子を形成し,単子嚢で遊走子(減数胞子)を形成する(例外も多い).雄性配偶子は雌性配偶子が分泌するフェロモンに対する化学走性を示す.シオミドロ(Ectocarpus siliculosus)で核ゲノム配列が報告されている.

 多くの褐藻は沿岸域に生育する海藻であり,特に高緯度地域では生物量が多い.大形の褐藻(ホンダワラ類,アラメ,カジメ,オオウキモなど)は海中林を形成し,沿岸生態系において重要な地位を占めている.また淡水域に生育する種もわずかに知られる.ワカメ,コンブ,モズク,ヒジキなどは食用とされ,またさまざまな褐藻から抽出されるアルギン酸は繊維加工や紙,医薬品,飼料,食品などに広く利用される.

 古くは独立の褐藻植物門(Phaeophyta)とされたこともあるが,現在では不等毛植物門の1綱,褐藻綱(Phaeophyceae)に分類される.シゾクラディア藻綱Schizocladia ischiensisのみ)の姉妹群.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:27