PIIタンパク質[PII protein]

  古細菌,原核生物,および植物に分布する調節タンパク質.分子量1.2万~1.3万のサブユニットの三量体で,窒素栄養状態に応じて細胞の種々の活性を調節する.glnBglnKnifIにコードされる3つのサブグループがある.それぞれの遺伝子産物は,大腸菌のGlnBとGlnK,およびシアノバクテリア(藍藻)のGlnBについての生化学的研究により, ATPと2-オキソゲルタル酸(2-OG)を結合することが示されている.2-OGはアンモニア同化における窒素受容体であり,窒素欠乏時にその細胞内濃度が上昇してPⅡの活性を制御すると考えられている.大腸菌のGlnBはさらに窒素栄養状態に応じてチロシン残基のウリジリル化・脱ウリジリル化による活性調節を受け,グルタミン合成酵素(GS)をアデニリル化する酵素と相互作用してGS活性を翻訳後段階で制御するとともに,二成分情報伝達系NtrB/NtrCにおけるリン酸基転移を調節してGS遺伝子をはじめとする窒素同化系遺伝子群の転写を制御する.ウリジリル化・脱ウリジリル化酵素の活性はグルタミンによって制御されるので,大腸菌のPⅡの活性はグルタミンと2-OGの両者により調節されることになる.大腸菌のGlnKはGlnBと同様の修飾を受けGlnBの機能を一部代替できるが,それ自身の機能としてアンモニア輸送体の活性を翻訳後段階で制御している.NifIは窒素固定能をもつ古細菌や細菌においてニトロゲナーゼの翻訳後制御に関与していると推定されている.
 光合成生物のうち,シアノバクテリアはすべての種がGlnBのみをもつ.シアノバクテリアのPIIは,窒素充足時には2-OG非結合型として存在している.窒素充足状態では,PIIはアルギニン生合成系の鍵酵素であるN-アセチルグルタミン酸キナーゼ(NAGK)を活性化して窒素貯蔵物質であるシアノフィシンの合成を促進する一方,ABC型硝酸イオン・亜硝酸イオン能動輸送体と硝酸レダクターゼに作用して硝酸同化を阻害し,さらに窒素同化系遺伝子群の転写促進因子であるPipXを不活性化して窒素同化活性を抑制する.窒素が不足して2-OG濃度が上昇し,2-OGがPIIと結合するとNAGK活性化以外のPIIの作用は失われる.シアノバクテリアのPIIは窒素欠乏条件下で次第にリン酸化されるが,これもPIIとPIIフォスファターゼの相互作用が2-OGの結合によって妨げられるためである.リン酸化されたPIIはNAGKの活性化能力を失い,NAGK活性は低下する.植物のPIIは核のGLB1遺伝子にコードされる葉緑体タンパク質で, GlnBのグループに属していてシアノバクテリアのものに似ているが,リン酸化による修飾は起こらない.植物のPIIはシアノバクテリアのものと同様にNAGK活性を高める作用をもち、さらにアセチルCoAカルボキシラーゼと相互作用して脂肪酸合成を抑制することが知られている.緑藻にも類似のPIIタンパク質が存在する.
 紅色細菌もGlnBとGlnKをもっており,Rhodospirillum rubrumでは,PⅡがGSのアデニリル化による活性制御のほか,ニトロゲナーゼ遺伝子の転写活性化因子NifAの活性化,およびニトロゲナーゼタンパク質のADPリボシル化・脱ADPリボシル化による活性制御に関与することが示されている.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:01