PSI/PSII比[PSI/PSII stoichiometry]

  光化学系Ⅰ反応中心(PSI)と光化学系Ⅱ反応中心(PSII)の量比.酸素発生型光合成の電子伝達系は,当初,ゼットスキームモデルで示されるように, PSIとPSIIが常に等量(PSI/PSII=1)存在し,その比率は生育条件などの影響を受けないものと考えられていた.しかし, 1980年頃にシアノバクテリアのPSI/PSII比が培養時の光強度や光質などの条件により変化することが明らかにされた.すなわち,光合成が飽和する強い光や光化学系Ⅰのアンテナ色素(クロロフィルa)に優先的に吸収される赤色光で培養した場合は, PSI/PSII比はほぼ等量関係(PSI/PSII=1)を保つが,光強度が光合成の律速となる弱い光や光化学系Ⅱのアンテナ色素(フィコビリソーム)に優先的に吸収される光(橙色や緑色)で培養した場合は, PSI/PSII比が高くなる(PSI/PSII=2~4).一方,紅藻においてフィコエリスリンの吸収する光(緑色光)の下での光合成の量子収率の適応現象が報告されていたが,この現象の実態はPSI/PSII比の調節であることが明らかになった.すなわち, PSI/PSII比の調節の生理的意義は,与えられた光環境のもとでPSIとPSIIの駆動のバランスを保つことにより光合成の効率を維持することにある.光強度や光質によるPSI/PSII比の調節は,シアノバクテリアや紅藻だけでなく緑藻や陸上植物でもみられ,酸素発生型光合成系生物に普遍的な調節のしくみである.ただし, PSI/PSII比の絶対値はアンテナ色素の種類などに対応して異なる. PSI/PSII比の調節は, PSI量が主に変化することにより起こり,光化学系Ⅰ複合体サブユニットの合成や分子集合の段階が制御されている.また,光合成電子伝達系のレドックス状態が調節信号に関与する可能性が示唆されている.

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:52