還元的ペントースリン酸回路[reductive pentosephosphate cycle]

  光合成的炭素還元(photosyn-thetic carbon reduction, PCR)回路,C3回路,また発見者にちなんでカルビン・ベンソン回路,カルビン回路とも称される. C3植物の葉緑体ストロマにおいてCO2固定を担う主経路で,13の酵素触媒段階はカルボキシル化,還元,リブロース1,5-ビスリン酸の再生産の3過程に大別される.カルボキシル化の過程はリブロースビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco)により担われ, CO2リブロース1,5-ビスリン酸(RuBP)から2分子の3-ホスホグリセリン酸(3-PGA)を生じる.次の還元過程においては, 3-PGAがホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)によりATPを消費して1,3-ビスホスホグリセリン酸に変換され,さらにグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)によりNADPHを消費してグリセルアルデヒド3-リン酸(GAP)に還元される.GAPの一部は,トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)の作用によりジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)に変換され,細胞質に輸送される.次のRuBP再生過程では,三-,四-,六-,七炭糖間で一連の縮合・転移反応が行われて五炭糖が生成し, CO2受容体であるRuBPが再生される.まずアルドラーゼの触媒によりGAPとDHAPが縮合し,フルクトース1,6-ビスリン酸(FBP)が生じる. FBPはフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(脱リン酸化酵素,FBPase)により加水分解されフルクトース6-リン酸(F6P)に変換される. F6PとGAPはトランスケトラーゼの作用によりエリスロース4-リン酸(E4P)とキシルロース5-リン酸(Xu5P)に変換され,またE4PとDHAPはアルドラーゼの触媒によりセドヘプツロース1,7-ビスリン酸(SBP)へと変換される.SBPは次いで,セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ(SBPase)により加水分解されセドヘプツロース7-リン酸(S7P)を生じ, S7PとGAPはトランスケトラーゼによりXu5Pならびにリボース5-リン酸(R5P)に変換される.このようにして生じた五炭糖のうち, Xu5Pはホスホペントースエピメラーゼにより,またR5Pはホスホペントースイソメラーゼによりリブロース5-リン酸(Ru5P)に変換され,最後にRu5Pはホスホリブロキナーゼ(PRK)とATPによりリン酸化されRuBPが再生産する.還元的ペントースリン酸回路において実質的に不可逆な過程は, Rubiscoによるカルボキシル化, FBPおよびSBPの加水分解, Ru5Pのリン酸化の4段階である.回路全体の収支をみると,3分子のCO2と3分子のRuBPから6分子のGAPが生成し,このうち5分子のGAPが3分子のRuBPに再生され,残り1分子のGAPが,他の細胞構成成分や代謝産物として利用されることになる.この際,9分子のATPと6分子のNADPHが消費されるが,その自由エネルギー変換効率は80%以上であり,非常に効率が高い.還元的ペントースリン酸回路を構成する諸酵素は,生体内で様々な機構により調節されている.たとえばRubiscoは活性中心リジン201位のカルバメート-Mg2+修飾により活性化されるが,この活性化はin vivoではRubiscoアクチベースにより触媒され,光によるチラコイドルーメンストロマ間のpH勾配形成ならびにMg2+濃度上昇により促進される.またGAPDH, FBPase, SBPase, PRKなどの酵素は,光に応答してフェレドキシン-チオレドキシンを介した酸化還元反応により活性が調節される.この調節系においては,明所において光化学系Ⅰで還元されたフェレドキシンが,フェレドキシン-チオレドキシンレダクターゼ(FTR)によりチオレドキシンを還元する.チオレドキシンはFBPaseなど還元的ペントースリン酸回路酵素のジスルフィド結合を還元することでこれらの酵素を活性化する.暗所ではこれらの酵素ならびにチオレドキシンが酸化されてジスルフィド結合が再び形成され,酵素が不活化し代謝回転が抑制される.

reductive pentose.png

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