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*フィコビリタンパク質[phycobiliprotein] [#q27476ba]
  フィコビリン色素を結合するタンパク質の総称.シアノバクテリア,灰色植物,紅藻,クリプト藻がもつ水溶性の光合成アンテナタンパク質とフィトクロムやシアノバクテリオクロムなどの光受容体を含む.前者の色素はフィコシアノビリン、フィコエリスロビリン、フィコビオロビリン、フィコウロビリンであり、アポタンパク質は後述するグロビンファミリーに属する共通祖先に由来する.後者の光受容体には、ビリベルジン、フィトクロモビリン、フィコシアノビリン、フィコビオロビリンが結合し、アポタンパク質は一群のGAFドメインである.&br;

*光合成のアンテナ・フィコビリタンパク質 [#te50c287]
 光合成のアンテナタンパク質としてのフィコビリタンパク質は、サブユニット構造,色素の光学特性をもとに,[[アロフィコシアニン]],[[フィコシアニン]],[[フィコエリスロシアニン]],[[フィコエリスリン]]の4種類に大別され,さらにフィコシアニン,フィコエリスリンは,サブユニット構造と結合する発色団の構成によってさらに細分される.フィコシアニンではC型,R型,フィコエリスリンはC型,b型,B型,R型,に分類される.シアノバクテリア,灰色植物,紅藻では,極く少数の例外を除いて,アロフィコシアニン,フィコシアニンが必ず存在するが,フィコエリスリンの存在は種によって異なる.クリプト藻のフィコビリタンパク質は他とは大きく性質が異なる.&br; 各タンパク質は共通の組成をもつ.単量体は,分子量約18~20 kDa のα,βの2種類のサブユニットの1つずつから構成される.この単量体が3個結合して、ドーナツ状の三量体を形成し、この三量体同士が張り合わさって六量体を形成する.アロフィコシアニンは三量体をディスク単位として積み重なり、フィコビリソームのコアシリンダーを形成する.フィコシアニンやフィコエリスリン、フィコエリスロシアニンは六量体をディスク単位として積み重なり、フィコビリソームのロッドを形成する.これらのドーナツ状のディスクの中央の空隙には特異的なリンカータンパク質が挿入され、ディスク同士をつなぐことで、ロッドやコアシリンダーが秩序だって形成される.&br;
 ロッドを形成するフィコシアニンやフィコエリスリン、フィコエリスロシアニンのディスクは均一なα/βサブユニットで構成されるが、コアを形成するアロフィコシアニンはマイナーなサブユニットを含む複雑な組成をしている.つまり、アロフィコシアニンのα,βサブユニットのほかに, α-APBと呼ばれるαサブユニットのマイナー分子種, β16.2またはβ18.5と呼ばれるβサブユニットのマイナー分子種,また[[アンカータンパク質]]と呼ばれる60 kDa よりも大きなサブユニットも存在する.単量体が細胞内で存在することはなく,生理的な条件下では単量体が会合した三量体もしくは六量体が基本ユニット(ディスク)となり,さらにこれらをつなぐリンカータンパク質とともに高次構造をつくり上げていく.&br;
 シアノバクテリア,灰色植物,紅藻においては,フィコビリソームという分子量が3,500 kDa から5,000 kDa に及ぶ会合体を形成し,チラコイド膜の細胞質側表面に結合し,光化学系Ⅱもしくは光化学系Ⅰのアンテナ系として機能する.クリプト藻ではフィコビリソームの存在は知られておらず,二量体が機能単位となる.またチラコイド膜のルーメン側に位置するという特徴を示す.&br;
 [構造・色素結合]α,βサブユニットのアポタンパク質は,グロビンファミリーに属し,その立体構造はミオグロビンに似ている.発色団はヘムが開裂した開環テトラピロールであり,タンパク質とはシステイン残基の硫黄原子とチオエーテル結合で結ばれる.この共有結合の多くは、特定のビリンリアーゼという酵素のはたらきでつくられる.発色団によっては,2個所で共有結合するものもある.このように、フィコビリン色素は光合成色素のなかで唯一共有結合する.なお、色素とタンパク質が共有結合すると、1つの分子となるので、フィコビリン色素部分は、化学的には、発色団というべきであるが、生物学的には混用されている.&br;
 [進化・系統]光合成のフィコビリタンパク質の系統樹は,まずαサブユニットとβサブユニットに分かれ、さらにそれぞれのグループに分かれる.これらには、アロフィコシアニンがより古く,フィコシアニン,フィコエリスリンが後から分岐したという系統関係がある.アミノ酸レベルでの相同性は低くとも,結晶構造から明らかになった高次構造は,アロフィコシアニン,フィコシアニン,フィコエリスリンの間できわめてよく似ている.これらのタンパク質ではこの順序で結合する発色団の数が増加しているのであるが,それはタンパク質の外側表面に付加していったことが構造解析から裏づけられる.クリプト藻のフィコビリタンパク質は系統的にも,構造的にも他とは大きく異なっている.

*光受容体のフィコビリタンパク質 [#te50c287]
 光受容体のフィコビリタンパク質には、フィトクロムとシアノバクテリオクロムがある.シアノバクテリオクロムはシアノバクテリアにのみ存在するが、フィトクロムは細菌、シアノバクテリア、藻類、陸上植物、菌類など幅広く分布する.とくにフィトクロムの発見は高等植物であったこともあり、その色素はフィトビリンと総称することはあってもフィコビリン色素に含めないことが多く、伝統的にフィトクロムをフィコビリタンパク質に含めないこともある.フィトクロムやシアノバクテリオクロムは光受容体であるため、色素を結合するGAFドメインとともにシグナル伝達にかかわるドメインをもつマルチドメインタンパク質である.そのため、相同性があるのは、色素結合におもにかかわるGAFドメインであり、フィトクロムではさらにその前後のドメインも色素結合に関与して保存されている.ビリベルジン、フィトクロモビリン、フィコシアノビリン、フィコビオロビリンは開環テトラピロールとして、どの場合も色素はGAFドメインに保持されている.なお、ビリベルジンを結合するフィトクロム類では、色素を共有結合するシステイン残基はGAFドメインの外にあるが、他の色素では、GAFドメイン内部のシステイン残基が色素を共有結合している.

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