葉緑体は,植物固有のオルガネラである色素体の一分化形態である.最も主要な機能は光合成であるが,脂肪酸合成,アミノ酸合成,亜硝酸還元などの重要な機能も担っている.多くの高等植物では,直径5~10μm,厚さ2~3μmの円盤状である.藻類では系統や種によって葉緑体の形と大きさはきわめて多様である.細胞に含まれる数は植物種や細胞の種類によっておおよそ一定で,高等植物の葉肉細胞では数十から数百個であるが,藻類やコケ植物では数個あるいは1個のものもある.
葉緑体は内包膜,外包膜の2重の包膜に包まれており,内部には扁平な袋(膜包)であるチラコイドが多数含まれている.したがって,葉緑体は膜によって,外包膜と内包膜の膜間相,内包膜とチラコイドの間のストロマ,チラコイド内腔の3つの区画に分かれている.葉緑体のチラコイド膜にはクロロフィルなどの光合成色素をはじめ光化学系,シトクロムb6f複合体,プロトン輸送性ATP合成酵素などの複合体が組み込まれている.クロロフィルaはすべての植物の葉緑体で共通であるが,それ以外の光合成色素については植物の系統によって組成が異なる.光合成色素によって吸収された光エネルギーは光化学系で化学エネルギーに変換され,そのエネルギーによって光合成電子伝達反応が駆動される.炭素固定反応に還元力として使われるNADPHと副産物としての分子状酸素はチラコイドで行われる光合成電子伝達反応の結果生じる.チラコイド膜はプロトン不透過性であり,光合成電子伝達反応によってチラコイド膜を介して形成されたプロトンの濃度勾配を利用して,プロトン-ATPaseによってATPが合成され,炭素固定反応に使われる.
チラコイドの層状配列は植物の系統によって異なり,各系統群の特徴的な形質の一つになっている.維管束植物の葉緑体ではチラコイドはグラナと呼ばれる数層から10層程度積み重なった部分とグラナ間を連結するストロマチラコイドから構成されている.しかし,トウモロコシなど多くのC4植物では,葉肉細胞の葉緑体には顕著なグラナが存在するが,維管束鞘細胞の葉緑体にはグラナが認められない.コケ植物のうち蘚類と苔類はグラナが認められるが,ツノゴケ類ではグラナは未発達で,グラナチラコイドとストロマチラコイドの区別が明瞭ではない.紅色植物ではチラコイドの積み重なりは見られない.褐色植物では2ないし数層のチラコイドがほぼ全面で接着している.緑藻類では,数層がほぼ全面で接着しているもの,クラミドモナスのように局所的に数層のチラコイドが接着しているもの,ツヅミモのようにグラナ状に積み重なったチラコイドの配列をもつものなどがあり,多様である.
ストロマにはカルビン回路の全酵素が存在し,炭素同化反応が行われる.脂肪酸合成,亜硝酸還元反応などの反応も行われる.また,ストロマには色素体DNAが核様体として組織化されて存在し,色素体DNAの複製,転写,翻訳もすべてストロマで行われる,