*光合成二酸化炭素固定系の進化[evolution of carbon dioxide fixation] [#n5954c8f]
    炭酸固定系の進化も,地球環境との共進化である.環境の要素としては大気の組成,気温あるいは乾燥の程度が大きな役割を果たした.炭素固定を担う酵素,[[Rubisco]] (ルビスコ)は嫌気性メタン産生アーキアに誕生した単系統と考えられている.RubiscoはCO&subsc(2);とO&subsc(2);の両方に反応し,それぞれカルボキシラーゼ反応,オキシゲナーゼ反応を行う.植物の生育を支えるカルボキシラーゼ反応に対して,オキシゲナーゼ反応は拮抗的な阻害反応である.しかし, Rubiscoの誕生当時の大気のCO&subsc(2);濃度は現在の2,000倍程度で,O&subsc(2);はほとんど存在していなかったと考えられ,誕生当時は, Rubiscoによるカルボキシラーゼ反応は最大活性を示した.しかし,その後,CO&subsc(2);濃度は減少し,O&subsc(2);濃度は増加し,現在ではそれぞれ37 Pa, 21 kPa となっている.
 この大気の変動は,植物による炭素固定に,O&subsc(2);による阻害と,基質(CO&subsc(2);)不足を進化の淘汰圧として与えた.その結果,植物には2つの方向の進化が起こった.一つは,Rubiscoの変化で,オキシゲナーゼ反応の軽減とカルボキシラーゼ反応の促進である.もう一つは,Rubisco近傍でのCO&subsc(2);濃度を高める[[無機炭素濃縮機構]]であった.これには,水圏でのCO&subsc(2);の拡散に対する抵抗が高いことを克服することも含めた藻類の無機炭素濃縮機構(細胞膜に“無機炭素"(CO&subsc(2);+HCO&subsc(3);&supsc(-);)を能動的に取り込む輸送体とRubisco近傍に[[炭酸脱水酵素]]を発現させたもの)と,C&subsc(4);植物の炭酸濃縮機構(HCO&subsc(3);&supsc(-);を基質とする[[ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ]]で炭素固定を行い,その産物のC&subsc(4);ジカルボン酸の[[脱炭酸酵素]]をRubisco近傍に配置した)がある.C&subsc(4);植物は,1,000万年前頃に起こった大気の変化が大きな淘汰圧となり, C&subsc(3);植物から炭酸濃縮濃
縮機構をもつものとして進化したと考えられているが,高温と乾燥の影響も無視できない.温度はCO&subsc(2);とO&subsc(2);の水の溶解度に影響(温度が上昇すると,[CO&subsc(2);]/[O&subsc(2);]が減少し,カルボキシラーゼ活性/オキシゲナーゼ活性が減少する)を与える.現在の大気では,25℃以上になるとC&subsc(4);光合成のほうがC&subsc(3);光合成よりも能率がよくなることが多い.C&subsc(4);植物はC&subsc(3);植物に比べて水の利用効率も高い.C&subsc(3);植物とC&subsc(4);植物の中間的な特徴をもつC&subsc(3);- C&subsc(4);中間植物も現存している.[[CAM植物]]は昼に[[気孔]]を閉じることにより葉からの水の蒸散を抑え,乾燥に対する耐性を獲得した植物であるが,それは,被子植物の進化のかなり早い段階(2億年前あるいはそれ以前)に誕生したと推測されている.C&subsc(4);植物やCAM植物には多くの種が認められるが,それらが系統樹の離れたところに存在することなどから,それらの進化は何度も独立に起こったと考えられている.


** 関連項目 [#if72ced0]
-[[還元的TCA回路]]
-[[光合成細菌の二酸化炭素同化]]
-[[還元的ペントースリン酸回路]]
-[[地質時代と地球環境]]
-[[光合成の進化]]


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