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ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ[phosphoenolpyruvate carboxylase (PEPC)] 
 EC 4.1.1.31,略称PEPC. Mg&supsc(2+);存在下で[[ホスホエノールピルビン酸]](PEP)と重炭酸イオンからオキサロ酢酸(OAA)と無機リン酸を生成する反応を不可逆的に触媒する酵素.高等植物をはじめすべての独立栄養生物に存在し,さらに従属栄養生物の原生生物および大部分の細菌に存在するが,動物,カビ,酵母には存在しない.
~&ref(PEPC反応2.png); 
~ PEPCは主に分子量約10万の同一サブユニット4個から成るホモ4量体で機能するが,植物においては植物型4個と細菌型4個の異なるサブユニットから成るヘテロ8量体で機能する酵素も存在する.植物型にはさらにアイソザイムが存在し,たとえばトウモロコシではC&subsc(4);型,C&subsc(3);型,根型と呼ばれる3種が知られている.PEPCは基本的に細胞質に局在する酵素であるが,イネなど一部の植物においては葉緑体型のPEPCが存在する.植物細胞におけるPEPCの生理的役割としてC&subsc(4);植物および[[CAM植物]]における光合成初期二酸化炭素固定を担うことが知られており,本酵素は[[C&subsc(4);ジカルボン酸回路>C4ジカルボン酸回路]]における鍵酵素の一つである.このC&subsc(4);型アイソザイムは葉肉細胞において全可溶性タンパク質の5-10%を占めるほど大量に存在し,維管束鞘細胞や他の器官では発現しない.非光合成器官や細菌においてはTCA回路にOAAを供給することで同回路の異化的機能および生合成的機能の維持に寄与する.特に植物では窒素固定のための炭素骨格の供給において重要であり,その他,気孔の開閉,種子の発芽,果実の登熟,根粒における呼吸基質の供給にも関与しており,それぞれのアイソザイムが役割を分担している.PEPCの立体構造(三次および四次構造)は,大腸菌酵素やトウモロコシにおけるX線結晶構造解析により解明された.
~&ref(PEPC構造2.png);
~ PEPCは多種の代謝産物によって活性調節されるアロステリック酵素であり,エフェクターの種類は生物種によって多様性に富む.植物酵素は,pHの影響を強く受け,pH8.0付近で活性は最大化する.pH7.5からpH7.0あたりでは,[[リンゴ酸]]によるフィードバック阻害,グルコース6-リン酸による活性化を受ける.この応答はpH8.0の最大活性時には示さない.
~ また,植物型PEPCはリン酸化による活性制御を受ける.N末端側において高度に保存されているセリン残基(トウモロコシでは15番目のセリン)がリン酸化された酵素は高活性型となり,基質であるPEPに対する親和性が上昇し,阻害剤であるリンゴ酸に対して感受性が低下する.なお,このリン酸化による制御はpH7.5近傍で限定的に確認され、pH8.0やpH7.0あたりでは、リンゴ酸感受性の変化は脱リン酸化型と変わらない.このリン酸化はC&subsc(4);型酵素では昼に促進され,CAM型酵素では逆に夜に促進される.C&subsc(3);植物の光合成器官で発現するPEPCは基本的に昼にリン酸化が促進されるが,イネやオモダカのような一部の湿生植物では夜にリン酸化が促進される.細菌型や葉緑体型の酵素にはN末端リン酸化部位は存在しない.PEPCのリン酸化に関わる特異的リン酸化酵素がCAM植物,C&subsc(3);植物,C&subsc(4);植物から同定されている.
~ 近年,植物型の中でもTCA回路への基質の供給に働くPEPCは,リン酸化だけでなくモノユビキチン化による活性制御を受けることがわかっている.PEPCのモノユビキチン化はPEPに対する親和性の低下,リンゴ酸などのエフェクターへの感受性の増加により,活性を負に制御する.モノユビキチン化は4個のサブユニットのうち2個のみで起こり,同一のサブユニットにおいてモノユビキチン化とリン酸化は同時に起こらない.モノユビキチン化されて低活性型となった酵素は,脱ユビキチン化とそれに引き続いて起こるリン酸化により活性化される.モノユビキチン化は触媒サイトの近傍に位置するリジン残基(ヒマでは628番目のリジン)において起こり,このリジンは植物型PEPCにおいて高度に保存されている. 
~ 植物内において細菌型PEPCは触媒作用だけでなく,植物型PEPCの活性調節因子としての働きがあることがわかっている.植物型PEPCのホモ4量体酵素に細菌型PEPCが結合したヘテロ8量体では,PEPに対する親和性の低下,リンゴ酸などのエフェクターに対する感受性の低下が起こる.また,細菌型PEPCが結合すると酵素の高温耐性が向上する.細菌型PEPCは,植物型PEPCが阻害されるような条件下において,PEPC活性を維持するために働くと考えられる.

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