#freeze
*補色馴化[complementary chromatic acclimation] [#a5dac8e2]
 補色順化ともいう.本来は、 [[フィコビリソームロッド構造]]の構成成分である[[フィコシアニン]]と[[フィコエリスリン]]の相対含量が緑色光と赤色光により可逆的に調節される現象をさし,シアノバクテリアの一部の種だけがもつ光環境馴化能である.この現象は光質による細胞の色の変化として1883年にEngelmannにより報告され,その後光質(色)による色素組成の変化として認識された.この補色馴化能をもつシアノバクテリアを赤色光下で生育させると赤色光を吸収する青色のフィコシアニンの合成が促進され,緑色光を吸収するフィコエリスリンの合成が阻止される(作用極大:640 nm).その結果,ロッドはフィコシアニンだけで構成され,フィコエリスリンのないフィコビリソームが形成される.一方,緑色光下ではフィコシアニンの合成は抑制され,緑色光を吸収する紅色のフィコエリスリンの合成が誘導促進される結果,ロッドの先端部はフィコシアニンからフィコエリスリンに置き換わり,フィコエリスリンの多いフィコビリソームが形成される(作用極大:540 nm).細胞の色調は,赤色光下での青緑色から緑色光下での赤褐色に変わる.&br;
 このように,与えた光の光質に対して補色の分光特性をもつ色素タンパク質が相補的に発現することから,補色馴化(complementary chromatic acclimation)と呼ばれる.この調節現象の光受容体として[[フィトクロム]]および細菌の[[二成分制御系]]に類似した'''rcaE'''遺伝子が1996年に同定され,リン酸転移による補色馴化の光受容・信号伝達モデルが提唱されている.補色馴化はフィコエリスリンを合成可能なシアノバクテリアのなかに広くみられるが,特定の種だけがもつ能力で,系統性との直接の関係は示されていない.また,同様なフィコビリソームをもつ紅藻類からは,明らかに補色馴化能をもつ種は報告されていない.&br;
 補色馴化は、古典的に、フィコエリスリンをもつ種で、次のように定義されてきた.I型=馴化を示さない、II型=緑色光フィコエリスリンの蓄積が誘導され赤色光で抑制されるが、フィコシアニンの蓄積は変動しない、III型=II型と同様のフィコエリスリンの蓄積誘導と抑制が起こるだけでなく、フィコシアニンの蓄積が緑色光で抑制、赤色光で誘導される.このうち、II型補色馴化の光受容体は'''CcaS'''である.しかし、フィコエリスリンタンパク質に結合するフィコウロビリン色素の蓄積が青色光で誘導されるものをIV型と呼ぶことが最近、提唱されている(光受容機構はまだ不明).さらに遺伝子の研究が進み、フィコエリスリンをもたない種で、フィコシアニンの蓄積を制御する馴化応答や遠赤色光でクロロフィルfを含む長波長色素の蓄積を誘導する現象(光受容体はRfpA)もみつかっており、補色馴化現象はシアノバクテリアにおいて予想以上に多様と考えられる.

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