光による光合成機能低下の総称. 1956年コックがクロレラの光合成の強光照射による不可逆的阻害を初めて報告し,光阻害と呼んだ.光阻害は葉緑体でのエネルギー消費を上回る過剰の光エネルギーが供給されたときに生じる.光過剰下で生成する反応性の高い活性酸素種や三重項クロロフィルなどによって葉緑体成分が酸化・損傷を受けることが原因である.乾燥や高塩分土壌で気孔が閉鎖し葉緑体へのCO2供給が制限されたり,低温で還元的ペントースリン酸回路(カルビン回路)の酵素が阻害されると,葉緑体のエネルギー消費能が低下するため,そのような環境ストレス条件での光照射は光が過剰な状態をもたらす.また,陰生植物は最大光合成速度が低く,陽生植物に比べて同じ光強度でも光過剰になりやすい.
光過剰条件では葉緑体電子伝達系は過還元状態となり,光化学系Ⅱでの三重項クロロフィル生成,一重項酸素生成,および光化学系Ⅰでのスーパーオキシド生成,過酸化水素生成が促進される.これらの分子種は光化学系Ⅱ反応中心のD1タンパク質,光化学系Ⅰ還元側の鉄硫黄クラスター,カルビン回路のチオール酵素などを酸化し,失活させる.タンパク質合成系も活性酸素種により阻害される.鉄や銅を含むタンパク質の酸化変性で金属イオンが遊離すると,蓄積した過酸化水素からのヒドロキシルラジカル生成(フェントン反応)が促進され,これが近傍の生体分子(タンパク質,脂質,核酸,糖)を速やかに酸化し,その機能を低下させる.また,膜脂質の不飽和脂肪酸の酸化により生ずる過酸化脂質から反応性の高い水溶性アルデヒドが生成し,タンパク質,核酸を修飾する.
植物には光過剰緩和,活性酸素種消去など,光阻害に対する多重の防御機構が備わっているため,野外の通常の光条件変動,すなわちサンフレックや日周期・年周期変化で光阻害を生ずることはほとんどない.しかし,厳しい環境ストレスのもとで光過剰の程度が防御機構の能力を上回る状態が続くと,上述の反応性分子によって細胞機能が不可逆的に障害を受け,クロロフィルの分解,細胞膜透過性の増大などによって細胞の壊死,組織の可視的傷害に至る.