npq4変異株は,クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)やシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)などで単離された非光化学的消光(non-photochemical quenching; NPQ)の機能が著しく低下した変異体である.この変異体は,チラコイドルーメンの酸性化をモニターすることでNPQ誘導に関わる主要因子であるPsbSタンパク質を欠損しているため,光合成色素が吸収した過剰な光エネルギーを熱として安全に散逸させる能力が著しく低い.そのため,npq4変異株は強光ストレス下で光阻害を受けやすく,光合成能力の低下や細胞損傷をきたす場合がある.npq4変異体は,NPQ誘導機構やPsbSタンパク質の機能を解明するための代表的な遺伝学的ツールとして広く利用されており,NPQの誘導と緩和,特に光環境の変動に対する動的な調節に果たす中心的役割を明らかにする上で重要な知見を提供してきた.PsbSがチラコイドルーメンの酸性化を感知し,光捕集複合体(LHCII)の構造変化を誘導することで熱放散を促進するメカニズムの一端は,npq4変異体を用いた研究から明らかにされている.