クロロフィル蛍光の誘導期現象[induction ofchlorophyll fluorescence]

  暗馴化した葉や葉緑体に光照射したとき,時間に依存してクロロフィル蛍光強度が変化する現象.蛍光のインダクションともいう.常温でのクロロフィル蛍光は,主に光化学系Ⅱに吸収された励起エネルギーのうち,光化学反応(QAキノン電子受容体(QA)のQA-への還元)に利用されなかった一部が再び光に変換されたものである.暗所においた葉や葉緑体ではQA, QBキノン電子受容体(QB). プラストキノンプールが酸化されている.ここに光照射すると,初めは照射光が光化学反応に効率よく利用されるためクロロフィル蛍光の量子収率(励起光強度が一定の場合は蛍光強度に比例)は最小(F0蛍光)である,その後, QA,QB,プラストキノンプールが還元されるにつれて,QA-をもつ光化学系Ⅱ反応中心が蓄積し,光化学反応が起こりにくくなり,蛍光の量子収率が増大する.照射開始後数秒間は還元的ペントースリン酸回路(カルビン回路)の活性が低いため量子収率は増大を続けるが,光活性化されたカルビン回路へ還元力が流れるようになると,還元されていたプラストキノンプール, QB, QAが再酸化され,蛍光の量子収率は再び低下する(蛍光の消光).このような光照射初期のQAの還元速度と酸化速度のバランス変化によるクロロフィル蛍光変動現象を,発見者にちなんでカウツキー効果という. DCMU存在下の光照射ではQA-からQBへの電子伝達が阻害されるため,最終的にQAはすべてQA-となり,蛍光の量子収率は最大(Fm蛍光)に達する.このときの蛍光増大の時間経過はQAの還元過程のみを反映する.

関連項目


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