大酸化イベント[Great Oxidation Event]

 初期地球の還元的な地球表層環境が 酸素発生型光合成が産生する分子酸素の影響により酸化されたことで,25~23億年前を境に分子酸素の大気中への恒久的な蓄積が起こったとされる,地球史上のイベント(狭義の大酸化イベント)。従来,地球大気に分子酸素が蓄積され始めた証拠としては,地質記録において24~21億年前を境にしてパイライト(FeS)などの酸化されやすい鉱物を含有する河床堆積物が形成されなくなり,同時期以降に酸化物を含有する土壌堆積物が形成されることなどが挙げられてきた。現在では,地質記録中に保存された「硫黄の質量非依存的な同位体分別[Non-mass-dependent (NMD) sulfur isotope fractionations]」のシグナル(NMDシグナル)の消失が,分子酸素の大気中への恒久的な蓄積が開始されたタイミングであると解釈されている。すなわち,ガス状硫黄化合物は,大気中で紫外線による光化学反応を受ける際に,複数の硫黄同位体32S,33S,34S,36S)間での存在比の差に,それらの質量比に依存しない「偏った」変化を生じる。現在の地球表層環境の硫黄サイクルにおいては,これとは対照的な,質量依存的な同位体分別を伴う熱化学的ないし生物化学的反応が圧倒的に重要であるため,硫黄のNMDシグナルは地層中に保存されない。ところが,24~23億年以前に形成された地層には,明瞭なNMDシグナルが記録されている。このことは,24~23億年前を境に地球大気の酸素分圧が現在の値[present atmospheric level]の10-5を超えたことで,光化学反応で生じうるガス状硫黄分子種が,硫酸イオンにまで一度全て酸化された後に海洋で均一化されることで,NMDシグナルが失われるようになったことを示唆する。ところで,分子酸素の大気海洋系への放出の開始(すなわち光合成により還元された炭素の一部が再酸化されずに地層中に除去されるプロセスの開始)から,実際に大気中に分子酸素の恒久的な蓄積(pO2 > 10-5 PAL)に至るまでには,時間的なラグが存在したとされる。これは,酸素発生の開始初期には,地球内部から供給される還元的な物質(分子水素,炭化水素,硫化物イオン,二価の鉄イオンなど)の酸化に分子酸素が消費されたことによる(酸化還元的緩衝反応)。すなわち,分子酸素の大気中への恒久的蓄積は,この酸化還元的緩衝反応における酸化物質側の供給過多の帰結であり,光合成による分子酸素の供給速度の増大と地球内部からの還元物質の供給の減少(あるいは分子水素の宇宙空間への漏出)の,どちらか,ないし両方が引き金となったと考えられる。分子酸素の起源に関しては,酸素発生型光合成における水の酸化が,量的に議論可能な唯一のプロセスである。しかし,酸素発生型光合成が地球上に誕生した時期,ならびにその量的な変遷に関する議論は容易ではない。分子化石に基づいてシアノバクテリアの起源を27億年以前に求める議論が存在するが,近年この研究に否定的な報告がなされた。一方,25億年以上前に形成された地層中にみられる微量元素の突発的な濃集の記録から,大酸化イベント以前にも,一過的ないし局所的な分子酸素の蓄積が繰り返し起こったという議論がなされている。過去の酸素分圧を定量的に求めることは,一般に極めて難しい。23~21億年前に形成された堆積岩中には,有機炭素の安定同位体組成の大きな異常(13Cが12Cに対して相対的に濃集している)が記録されており,これは生物起源の有機物(典型的に13Cが12Cに対して乏しい)が大量に地層中に堆積した(大気海洋系から除去された)ことを強く示唆している。重要なことに,電子供与体である水の供給に制限のない酸素発生型光合成のみが,このような大量の有機物を産生することが可能な唯一の生物プロセスだと考えられる。従って,この炭素同位体組成の異常記録の説明を酸素発生型光合成に求めると,現在の大気中存在量と比較して10~20倍に相当する酸素が数億年かけて大気に供給された計算になる(多くは酸化還元的緩衝反応で消費されるため,必ずしも大気の酸素分圧が現在を上回るようなイベントを示すものではない)。この時期の高い酸素分圧は硫酸イオンや微量元素の濃集記録からも支持される。なお,オスミウム同位体組成などの分析から,原生代前期の全球凍結イベント(ヒューロニアン全球凍結イベント)のあった23億年前までは大気の酸素分圧は10-4 PAL程度に押さえられていたが,全球凍結解消直後に急上昇したことが示唆されている。ところが,これに続く時代(18~8億年前)の大気には,分子酸素は10-3 PAL以下しか存在しなかったと推定されている。従って地球大気の酸素分圧は,上述した狭義の大酸化イベントの後,特に全球凍結イベント直後に一旦急上昇したが,その後は未詳な理由により降下・停滞し,大酸化イベントから10億年以上を経た原生代後期になり再び上昇して,ようやく現在の値に近づいたと考えられる。

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Last-modified: 2015-03-23 (月) 16:34:38 (1522d)

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