アルミニウム耐性

 酸性土壌は世界の氷圏以外の陸地面積の約三割を占めるといわれている。酸性土壌には植物に対する様々なストレスが存在し、生育できる植物種を制限する要因となっている。これらストレスのうち、多くの酸性土壌で大きな制限要因となっているのは酸性化によって土壌中での溶解度が高まるアルミニウム(Al)の過剰害である。土壌溶液中に溶出したAlイオンは根、特に伸長領域において細胞壁や細胞膜と強く結合し、根の伸長や細胞膜機能に障害を及ぼす。また、細胞内に侵入したAlイオンは核等の細胞内オルガネラや酵素タンパクと結合しそれらの機能を阻害すると考えられている。

 植物はAl過剰害に対抗するために様々な機構を発達させているが、それは大きく二つに分けることができる。一つ目は根の機能により有害なAlイオンを根に集積させない機能、Al排除機構である。Al排除機構として多くの植物種でみられるのが根からの有機酸分泌である。クエン酸などの一部の有機酸はAlイオンと安定なキレート錯体を形成する。植物は根からこれらの有機酸を分泌することにより根圏においてAlと有機酸をキレート結合させる。このキレート形成によりAlの根細胞への結合が大幅に低下し毒性が軽減される。コムギやトウモロコシなどの作物を含む多くの植物種はこのAl排除機構によりAl耐性を獲得しているため地上部に移行するAlの量は僅かである。一方、酸性度の強い土壌(すなわち土壌中のAl濃度が高い)に自生する木本植物を中心に、葉に乾燥重ベースで数千~数万mg kg-1以上のAlを集積する種がしばしば存在する。これらの植物は「Al集積植物」といわれており、もう一つのAl耐性機構である体内でのAl耐性機構を高度に発達させ、障害を受けることなくAlを体内に集積する。Al集積植物における体内でのAl耐性機構として、細胞内でAlイオンを有機酸などと結合させ無毒化することが知られている。これは原理的には先に述べた有機酸分泌による根圏でのAl無毒化機構と同じであるが、植物体内では根圏のように土壌微生物によって代謝されたり拡散することが無いため、光合成により獲得した炭素を効率的にAl無毒化に利用できると考えられる。このような結合によるAl無毒化に加え、隔離によるAl毒性の回避もAl集積植物では知られている。Al集積植物は液胞やアポプラストにAlを隔離していることが報告され、これにより細胞質における各種代謝は正常に保たれる。また、葉でAlは表皮に多く集積し、光合成が行われる細胞から隔離されている。

 このようにAlは多くの植物にとって有害であり植物は様々な耐性機構を持つ一方、Alは生育に対して有益な作用を及ぼす有用元素の一つとしても知られている。特にこの有用性はAl集積植物でしばしばみられるが、その詳細な機構については未解明である。


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:42