単位時間当たりの蒸散量を指す.一般的には葉において,単位葉面積当たり単位時間当たりの蒸散量を指す.
蒸散速度は生物的要因と物理的要因に影響を受ける.生物的要因として,気孔開閉によって調節される気孔コンダクタンスと,調節されないクチクラコンダクタンスがある.物理的要因として,植物体内と外気の水蒸気濃度差(あるいは飽差)および,境界層コンダクタンスがある.これらを規定する微気象要素として,日射(吸収放射量),気温,湿度,風速が重要である.葉の大きさや傾き,葉毛や葉面の反射率も物理的要因を介して間接的に影響する.葉の大きさや形は境界層抵抗を介して,葉毛は葉の放射吸収や境界層抵抗を介して,葉の傾きは放射吸収を介してそれぞれ蒸散速度に影響する.
蒸散速度を求めるとき,研究対象の大きさに合わせていくつかの計算方法がある.これらの数式を検討することで,蒸散の過程や蒸散速度に影響する要因が明確になる.
【気孔の形態から個葉の蒸散速度を求める】
蒸散の過程において,葉内の細胞壁表面から細胞間隙へ蒸発した水蒸気は,気孔を通過して葉の外側へ拡散し,さらに境界層を横切って大気へと拡散していく.この水蒸気拡散の原動力は水蒸気濃度の勾配である.一般に、葉の表面で隣接する気孔間の距離(100 μm程度)は境界層の厚さより十分小さいので,葉面に対して平行方向の水蒸気濃度勾配を考える必要はない.したがって,蒸散速度(mol m2 s-1)は葉面に対して直角方向の水蒸気の拡散として,オームの法則に類似した一次元の方程式で表現できる.
E = Dwd∙n∙a∙(el-es)/(r+t) = Dwb∙(es-ea)/d 式(1)
気孔の形態として,式(1)ではひとつひとつの気孔を短い管と見なしてaはその円形断面積(m2),tは長さ(m)を表し,nは葉面積当たりの気孔密度(m-2)を示す.また,水蒸気拡散の原動力として,(el-es)が葉の内部と気孔の外側の水蒸気濃度勾配を示し、また(es-ea)が気孔の外側から大気の間の勾配を表している.さらに,この水蒸気拡散の比例定数として,Dwbは層流の空気を横切る水蒸気の拡散係数(m2 s-1),Dwdは静止空気中における水蒸気の拡散係数を示す(m2 s-1).Dwb ≈ 0.6Dwdである.最後に,水蒸気が拡散する距離は,tに管口補正として気孔半径rを加えた長さ(t + r)とする.これは気孔の出口には水蒸気濃度の高い空気が境界層中に突出するので,拡散する距離はtよりも長くなるからである.式(1)からesを消去し,再びEで整理すると式(2)を得る.
E = Dwd∙(el-ea)/{1.67d+(r+t)/n∙a} 式(2)
気孔の形態や密度との間には相互作用があり,例えば大きな気孔を持つ葉はaやtが大きいがnが小さくなるといった関係が見られる.植物は生育環境に合わせてこれらを最適に調節していると考えられる.
【個葉のガス交換特性から個葉の蒸散速度を求める】
蒸散速度を求めるときに一般的な方法で,葉を密閉した同化箱(chamber)に封入し内部に追加された水蒸気量から蒸散速度を求める(同化箱法).開放型では同化箱に決まった流量の空気を流し,入り口と出口の水蒸気濃度差などから蒸散速度(E、mol m2 s-1)を求める.葉によって追加された水蒸気は式(3)によって求められる.
EA = uo∙wo - ue∙we 式(3)
ここで、weとwoは入口と出口の水蒸気のモル分率(mol mol-1),ueとuoは入口と出口のモル流量(mol s-1),Aは葉面積(m2)である.また、入口と出口のモル流量の差は葉からの蒸発速度に等しいからuo-ue = uo∙wo-ue∙weである.uoは同化箱からの漏れを防ぐことができないので測定が難しい.式(4)ではuoを消去するためにuoについて解く.
uo = ue∙(1-we)/(1-wo) 式(4)
式(4)を式(3)に代入すると蒸散速度Eは
E = ue∙(wo-we)/A∙(1-wo) 式(5)
実際の測定では,式(5)から求めた同化箱内部の葉の蒸散速度を,細胞間隙と大気との間の飽差で除して気孔コンダクタンスを得る.さらに,同化箱外の葉の蒸散速度を求めるためには,葉面の境界層コンダクタンスを考慮する必要がある.これは同化箱の内部ではファンなどで空気を撹拌し,境界層コンダクタンスをできる限り大きくして蒸散速度を測定しているからである.
個葉の蒸散速度は日本の落葉広葉樹では野外で2~7 mmol m2 s-1 程度である.その他、枝や個体の蒸散速度を求めるために、切り枝の吸水速度から求める方法や、鉢植えの個体の重量の減少速度から求める方法が古くから利用されている.個体群の蒸散速度については蒸発散を参照.
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