セルロース[cellulose]

  セルロースはグルコース2分子がβ-1,4結合したセロビオースを構成単位としたきわめて単純な構造をもつ高分子であるが,その性質,生合成機構は単純ではない.結晶構造をとるセルロースミクロフィブリル(セルロース微繊維)は酸,アルカリ,熱などに耐性である.それは,β-1,4-グルカンが水素結合により束を形成することに基づいている.細胞壁にあるセルロースはグルカン鎖が平行な熱力学的に準安定なセルロースIタイプであり,加工されたセルロースは熱力学的に最も安定な逆平行のグルカン鎖のセルロースⅡタイプである.セルロースは光合成を行うすべての植物の細胞壁のみならずルAcetobacter Agrobacterium,Rhizobium, Sarcina, Trichodermaなどの細菌や菌類,ホヤなどの動物にも存在することが知られている.細菌のセルロース繊維は細く,植物細胞のセルロース繊維(セルロース微繊維が束になったもの,マクリオフィブリル)の太さのおよそ1/100で様々な特性を有するので新素材としての用途も考えられる.酢酸菌ではセルロースミクロフィブリルはターミナルコンプレックスと呼ばれるセルロース合成酵素複合体上でUDP-グルコースを基質として合成され,菌体側面の穴から噴出され,菌体はそれを推進力として水中を運動する.ホヤも特徴的なターミナルコンプレックスを有している.
 多くの植物細胞は細胞膜にロゼットと呼ばれる6個のタンパク質粒子から成る(藻類の一部ではもっと多くの粒子から成る)セルロース合成酵素複合体を有している.この複合体は光合成産物であるショ糖とUDPからスクロースシンターゼの作用により生成されるUDP-グルコースを基質として36本のグルカン鎖を形成すると推測されている.この合成酵素の活性部位はCesA (cellulose synthase)という遺伝子がコードするタンパク質が担っていると考えられている.シロイヌナズナではCesA遺伝子は10個ものマルチジーンファミリーを構成し組織特異的にあるいは時期特異的に発現しているようである.しかし,β-1,4-グルカナーゼのKOR (Korigan)サブユニットに変異が起こるとやはりセルロース合成が異常になることから,これらの遺伝子もセルロース合成に関与していると推測されている.植物細胞の伸長成長と密接な関係があるセルロースミクロフィブリルの配向は表層微小管により制御されていると考えられているが,その分子機構は未知である.calcofluor white は0.01%以上の濃度でセルロースミクロフィブリルに結合し紫外線照射により蛍光を発するので,生合成の様子を観察する手段としてしばしば用いられる.セルロースは難分解性で一般の動物が植物を食べる場合もセルロースは分解されない.反芻胃動物やシロアリは分解できるが,それは共生している原生動物や細菌の働きによるものである.一年間に生成されたり分解されたりするセルロースの量は地球上で1011トンのオーダーにのぼるといわれるが,資源としてきわめて重要な物質であり,地球温暖化の主要な原因といわれるCO2の固定という意味でもセルロース合成は重要である.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:40