デンプン[starch]

  デンプン(澱粉)は一般に水に不溶性の粒状で細胞中に存在するα-ポリグルカンである.高等植物ではデンプン代謝は葉緑体やアミロプラストなどのプラスチドに局在する酵素群によって行なわれる.ただし,灰色植物紅色植物などではデンプンが細胞質で合成されている.光合成組織において葉緑体中に一時的に形成されるデンプン顆粒を同化デンプンと称し,種子や根茎などの貯蔵組織においてアミロプラスト中に形成されるデンプン顆粒を貯蔵デンプンと称して区別される.貯蔵デンプンは規則性の高い半結晶構造をしていて,X線結晶回折像のパターンによってA型,B型,C型構造に分類される.

 デンプンの主成分はアミロペクチンとアミロースである。アミロースは基本的にα-1,4-鎖が連結した直鎖構造を持ち,短い分岐鎖が存在するものもある.また,その重合度は数DP(グルコース重合度)から数千DPまで連続的に分布している.アミロペクチンは,通常デンプンの70~85%を占め,α-1,4-グルコシド結合の直鎖がα-1,6-グルコシド結合によって連結し,複雑に枝分かれした巨大分子である.

 植物のアミロペクチンと動物やバクテリアのグリコーゲンは,いずれもα-1,4-グルコシド結合とα-1,6-グルコシド結合から成るαポリグルカンであるが,両者の分子構造は異なっている。アミロペクチンの構造はクラスターと呼ばれる基本構造が存在し,隣接クラスター同士がタンデム状に連結し,繰り返しと拡がりを持ちながら巨大分子を形成している(図1).また,クラスター内部は結晶性の高いクリスタルラメラと結晶性が低いアモルファスラメラの2つの領域に分かれている。クラスターを構成するグルコース直鎖を単位鎖と呼び,A鎖,B鎖,C鎖に分類することができる.A鎖はその鎖上に分岐を持たない比較的短い鎖であり,B鎖はその鎖上に他の単位鎖がα-1, 6により結合した分岐を持ち,1つのクラスター内に存在するB1鎖,複数のクラスターにまたがって存在するB1+n鎖に分類される.C鎖は還元末端をもつ鎖であり,1つのアミロペクチン分子に1つだけ存在する(図2).

 デンプンはアミロースとアミロペクチンの存在比,鎖長を始めとする微細構造の違いにより異なる物性が発現する。デンプンの物性が種間(コーンスターチとジャガイモデンプン),品種間(ジャポニカ米とインディカ米のデンプン),組織間(貯蔵デンプンと同化デンプン)で異なることもよく知られた事実である.この差異はデンプン合成に関わる酵素群の活性や機能の違いにより生じることが明らかになってきている.

関連項目


添付ファイル: fileデンプン図2.pdf 4236件 [詳細] fileデンプン図1.pdf 5135件 [詳細] filestarch.png 2168件 [詳細]

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:14