H+(プロトン)の電気化学ポテンシャル差はH+濃度差と膜電位から成り,生体膜におけるエネルギー変換において中心的位置を占めている(Mitchellの化学浸透説).膜で隔てられたH+の電気化学ポテンシャル差(Δ&font(o,11){μ};H+)は. RT ln[H+]i/[H+]o + FΔΨで表され,Rは気体定数,Tは絶対温度,Fはファラデーの定数,ΔΨは膜電位(膜の両側の電位差)である。ln[H+]=2.303 log[H+]= -2.303 pH だから, Δ&font(o,11){μ};H+ = -2.303 RT(pHi-pHo) + FΔΨ = -2.303RT(ΔpHi-o) + FΔΨ1 mol のH+の移動で利用できるエネルギー量は膜内外のpH差(ΔpHi-o)が1のとき25℃では,2.303 RT(ΔpHi-o) =5.7 kJ mol-1. 膜電位(ΔΨ)が1Vのとき,FΔΨ=96.5 kJ mol-1 となる.ATP合成の標準自由エネルギー増加(ΔG')は30.5 kJ mol-1.ATP 1 分子が合成されるとき, ATP合成酵素を通って移送されるH+数は,ATP合成酵素のプロトンチャネルを構成するcサブユニットの数に依存するため、3~5の間であるが整数にはならないと考えられる.かりにH+/ATP比を4と仮定すれば, ATP1分子の合成をΔpHのみでまかなうには約1.4のpH差が,ΔΨのみでまかなうには約79 mV の電位差が必要と計算される.光リン酸化を行っているチラコイド膜やクロマトホアでは,これを十分上回るΔ&font(o,11){μ};H+が実測されている.