人工的電子供与体[artificial electron donor]

  葉緑体の電子伝達では水が天然の電子供与体として働いているが,適当な還元剤もチラコイド膜に存在する電子伝達体に電子を供給することができる.このような還元剤を人工的電子供与体といい,電子伝達系のいくつかの部位に電子を供給することができる.すなわち, (1)P680から水酸化部位の間, (2)プラストキノンプール,そして(3)シトクロムb6f複合体からP700の間である.
 部位(1)に関しては, Mn2+アスコルビン酸ジフェニルカルバジドヒドロキシルアミンがよく用いられる.ただし, Mn2+やジフェニルカルバジドは水分解活性が失われたときにのみ電子供与体として機能する.アスコルビン酸は系全体を還元状態にする場合にも使われるので,注意する必要がある.ヒドロキシルアミンは,低濃度(μM)では水と競合して電子をマンガンクラスターに供給するが,高濃度(mM)ではマンガンクラスターを破壊し,直接P680に電子を供給する.
 部位(2)には一般的に還元型キノン類が電子を供給する.還元型のデュロキノンは特異性が高く,シトクロムb6f複合体の阻害剤であるDBMIBにより阻害される.
 部位(3)に電子を供給する物質は多くのものが知られているが,一般的に高濃度(mM)のアスコルビン酸とともに用いられる.よく用いられるものとして,ジアミノデュレン(DAD),テトラメチルフェニレンジアミン(TMPD),フェナジンメトサルフェイト(PMS),インドフェノール類(DCIP)が知られている.これらの還元型はプロトンを結合した状態でチラコイド膜内に入って電子を供給するが,プロトンはチラコイド膜内腔に放出される.したがって,電子の供給に伴いプロトン勾配が形成され, ATP合成を行うことができる.通常はDCMUなどを添加して光化学系Ⅱからの電子の供給を止めた状態で用いられる.なお,還元型DCIPはブラストシアニンに電子を供給する.多くの場合,部位(2), (3)で働く電子供与体は光合成細菌でも人工的電子供与体として機能する.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:18