仮導管は、すべての維管束植物の木部で観察される組織で、根で吸収した水や無機塩の輸送と機械的支持を担う。シダ植物や裸子植物は、仮導管からなる材を持つのに対して、被子植物の多くの種は導管を含む材を持ち、これを主要な水輸送経路として利用している。ただし、被子植物にも、センリョウやヤマグルマのように導管を欠き、仮導管だけからなる木部を持つ種が存在する。
仮導管は、針葉樹では5~80 μm、シダ植物では100 μmを越える内腔の直径を持ち、長さが1.0~5.0 mmの死細胞からなる。個々の仮導管の細胞は、中空な内腔を持ち、リグニンを含んだ二次壁が数 μmの厚さで肥厚した細胞壁を持つ。仮導管や木部柔細胞と隣接した場所には、壁孔という二次壁の肥厚を欠き一次壁が露出した構造が散在する。壁孔内部にある一次壁の部分を壁孔膜と呼び、ここを通して物質輸送が行われる。仮導管と仮導管が接した場所には、はしご状に細い二次壁で仕切られた構造の階段壁孔や円形の構造を持つ環状壁孔が観察される。環状壁孔では、二次壁がせり出した構造を持つものがあり、特に有縁壁孔と呼ばれ、イチョウや針葉樹で顕著に観察される。また、シダ植物や裸子植物のソテツ類、被子植物の導管を持たない植物種は、階段壁孔を持つ。
針葉樹やイチョウのもつ環状有縁壁孔では、8~20 μmの大きな直径の壁孔膜を持つ。この壁孔膜には、中心部分に細胞壁が顕著に厚く肥厚した構造(トールス、torus)があり、その周りにはセルロース微繊維が自転車のスポークのように多くの隙間を持ってトールスと細胞壁を繋ぐ構造(マルゴ、margo)がある。壁孔膜の大きな直径と多くの隙間を持つマルゴは、水を効率よく通すことができる。さらに隣接した仮導管でキャビテーションが起きると壁孔膜を挟んで圧力差が生じて、壁孔膜が水の入っている仮導管の側へ素早く移動する。そして、厚く肥厚したトールスの部分で有縁壁孔の入り口を塞ぎ、気泡の侵入を防ぐ。圧力差がさらに大きくなるとトールスのセルロース微繊維の隙間を通って気泡が隣接する仮導管内腔へ広がると考えられている。こうした有縁壁孔の構造は、通水の効率と安全性を同時に実現していると言える。
仮導管からなる針葉樹の枝と導管からなる被子植物の枝とで樹液流速や通導度を比較すると、多くの場合は針葉樹の枝の方が低くなる。これは、仮導管の直径が導管よりも小さいことに起因している。仮導管の直径を大きくできない理由としては、力学的支持機能による制約が考えられている。仮導管の直径を大きくすると、材における空隙率があがって、材密度が低下する。材密度はヤング率と比例関係にあるため、材密度の低下は、茎の硬さの低下に直結する。したがって、仮導管からなる材では、仮導管が力学的支持も行うために太い直径の仮導管を持つことがかならずしも有利になるとは限らない。一方で、導管を持つ材は、力学的支持を、直径が細く細胞壁が肥厚した木部繊維が担うため、比較的自由に導管の直径を大きくすることができ、通水効率を向上させられたと考えられている。