多くの生物では一つの個体(あるいは細胞)が多様な概日リズムを示すが,これらのリズムは自ら振動を発生しているわけではなく,共通の振動発生機構の制御がリズムを示していると考えられている.この概日リズムの原因となる細胞内の振動発生機構を概日時計という.このように概日時計は振動の最初の発生機構であり,基礎振動,ペースメーカーとも呼ばれるが,もう少し幅広い意味で,リズムと基礎振動を合わせたものを概日時計という場合もある.生物時計も同じ意味で使われるが,これは概日以外の周期性現象にも使われる.細胞内の基礎振動発生機構は恒常条件下では約24時間周期の振動を持続するが,昼夜環境下では,入力系と呼ばれる信号伝達系により昼夜の情報が伝えられ,正確に24時間周期の振動を示す.この振動は出力系と呼ばれるシステムを介して,多くのリズム現象として観察される.中心となる約24時間周期の振動発生機構は永らく謎であったが,近年,いくつかのモデル生物で振動発生の中心となる時計遺伝子が明らかにされた.その結果,時計遺伝子と呼ばれる遺伝子がその活性化因子により転写,翻訳され,産物の時計タンパク質が活性化因子を抑制することで負のフィードバックが生じていることが明らかになった.昆虫では,perとtimとCLK, CYC,哺乳類では,mper, cryとCLK, BMAL,カビではfrqとWC1, WC2,植物ではTOC1/APRRとLHY/CCA1,シアノバクテリアではkaiCとKaiAがそれぞれ時計遺伝子とその活性化因子と考えられている.こうしたフィードバックループが安定した振動を発生するためには,さらに正のフィードバックや時間遅れのプロセスも必要と考えられており,さらに多くの因子の解明が続けられている.