硫酸イオンは根から吸収されて,維管束を経て植物体内の茎,葉,生殖器官,種子などに輸送される.また,老化した組織からの篩部を経由した転流輸送もある.これらの組織・細胞間の輸送を長距離輸送という.この長距離輸送には,細胞外液を通るアポプラスト輸送と,細胞間の原形質連絡を経由するシンプラスト輸送がある.これに対して,細胞外液から細胞内への取り込みやオルガネラ間の輸送は短距離輸送と呼ばれている.
高等植物の膜系に存在する硫酸イオントランスポーターとしてはプロトン・硫酸イオン共輸送体が知られている.これは12個の膜貫通領域を有するプロトン・溶質共輸送体のファミリーに属し,プロトンと硫酸イオンを同時・同方向に輸送する.シロイヌナズナには数グループに分類できる十数個のプロトン・硫酸イオントランスポーターをコードすると考えられる遺伝子が存在するが,それぞれ硫酸イオンに対する親和性,組織・細胞局在性,硫酸イオン欠乏などに対する発現誘導性が異なり,それぞれ異なった役割を有していると考えられる.また,このほかに植物種によってはバクテリア型のABC型トランスポーターが葉緑体に存在している可能性もある.さらにはエネルギーを消費せず電気化学ポテンシャルに従った輸送を媒介するキャリヤータンパク質が硫酸イオン輸送に関わっている可能性もある.