磁気円偏光二色性[magnetic circular dichroism]

 光の進行方向と平行に置かれた磁場の下で物質が右と左の円偏光を異なった強さで吸収することから生ずる右と左の円偏光の吸収強度の差(二色性)をいう.通常の*円偏光二色性と異なり,不斉構造の有無にかかわらず,電子吸収を有するすべての分子がこの性質を示す.不斉構造をもつ物質(分子)が示す通常の円偏光二色性と重なって現れるが,起源はまったく異なり,外部から与えられる磁場の効果で摂動を受けた分子の電子状態と光(電磁波)との相互作用に由来する円偏光二色性である.通常の円偏光二色性とは反対に,分子の対称性が高く,電子状態に縮重状態があると,磁場により縮重状態が解けた(ファラディー効果を受けた)状態での光吸収における磁気量子数による選択則により,いわゆるファラディーのAあるいはC項という大きな磁気円偏光二色性が観測される.このほかにB項と呼ばれる,磁場による電子状態の混合から生ずる,比較的強度の低い磁気円偏光二色性は特に対称性の低い分子においては重要となる.紫外可視から近赤外にわたって光吸収を示すヘムや対称性のよい金属錯体を含むタンパク質においてはA項,C項の寄与が大きく,クロロフィルや芳香族残基を有するタンパク質においては,B項のみが観測されるが,それぞれに非常に貴重な情報を与え,分子構造,電子状態,配位構造の研究に用いられている.


トップ   編集 凍結解除 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:42:51