最初に提唱した研究者にちなんでコックモデル,あるいはオキシジェンクロックモデルとも呼ばれる. Joliot (1969年)とKok (1970年)は,長時間暗黒下においた葉緑体を閃光で照射すると,1発目と2発目の閃光では酸素発生がほとんどみられず,3発目の閃光で最大の酸素発生が起こり,以後4閃光ごとに酸素発生量のピークがみられることを観察した(→酸素発生の4周期振動の図).この酸素発生の4周期振動は,S0からS4までの酸化状態の異なる比較的安定な中間状態を経る,4段階の1電子酸化反応により酸素発生反応が進行することを示している(下図).光化学系Ⅱ反応中心でP680が1回光励起されるごとにS0からS4まで1段階ずつ反応が進行し,S4からS0状態へ戻るときに酸素が遊離される.連続光下では,2分子の水から4電子と4個のプロトンが引き抜かれ1分子の酸素が生成されるサイクルが繰り返される.O2/H2OのpH6での標準酸化還元電位は+870mVであり,一方この4つのS状態遷移過程の標準酸化還元電位の平均は+890mVと見積もられている.このことは水分解系が水酸化反応のエネルギーを下げる特別な触媒作用をもつことを意味している.
S0→S1, S1→S2, S2→S3,S3→S0の遷移過程は,それぞれ30, 110, 350, 1300ミクロ秒程度の時定数(t1/2)で進行する.S0→S1, S1→S2, S2→S3における活性化エネルギーは,それぞれ1.2, 2.9,8.6 kcal mol-1 とまったく異なる値を示す.光照射後,暗中では高いS状態から低いS状態への遷移が起こるが,この過程を不活化(deactivation)といい,S3→S2とS2→S1の半減期は,それぞれ0.5と2秒程度である.S0とS1との間の平衡は非常に遅い.長期間暗所に置くと,S0はYDチロシンラジカルによりS1に酸化される.
これらの中間体の構造や特性は, EPR, X線吸収(XAFS),核磁気共鳴(NMR),フーリエ変換赤外吸収(FTIR)や紫外吸収などの分光学的方法によって解明されてきている.S1における4個のマンガン原子の酸化状態は,X線吸収のK吸収端やESRの解析より, (Ⅲ, Ⅲ, Ⅳ, Ⅳ)あるいは(Ⅲ,Ⅲ, Ⅲ, Ⅲ)であると考えられている.そしてS1→S2→S3とマンガンクラスター上の酸化数は+1ずつ増していき,その正電荷を使ってS3→S0で一気に水を酸化しているようにみえる.しかし,各中間状態の酸化数についての明確な結論は得られていない.プロトン遊離に関しても,S0→S1, S1→S2, S2→S3,S3→S0の各遷移過程で1, 0, 1, 2が放出されるとされてきたが,タンパク質分解酵素のトリプシンで処理したチラコイド膜では1, 1, 1, 1のプロトン放出がみられるといったように,測定結果は光化学系Ⅱ標品の種類や外液のpHに大きく影響される.水分子からのプロトンの遊離には,チロシンZ,マンガンクラスター,およびその近傍アミノ酸残基が関与するとされており,その分子機構はプロトンアブストラクションモデルによって説明されている.広域X線吸収微細構造(EXAFS)解析より,マンガンクラスター中のMn間の距離は2.7Åと3.3Åであることが明らかにされている.マンガンクラスターの構造としてdi-μ-oxoブリッジによって結合したマンガン二量体の2個がさらにμ-oxo架橋で結合した構造やμ3-oxo構造をもつマンガン三量体が1つのマンガンとmono-μ-oxo架橋されている構造などが提唱されている.さらに,S状態の遷移に伴って,Mn間の距離はそれぞれ0.1から0.3Å程度変化することが報告されている.また,下図に示したサイクリックなS状態中間体のほかに,水分解系に必須なコファクターであるCa2やCI-が欠乏したときに生じる異常なS2状態や,過還元のS状態(S-1など)が存在する.(→マンガンクラスターの酸化状態)