三重項クロロフィル[triplet chlorophyll]

  クロロフィル分子が光エネルギーを吸収すると1個のπ電子が反結合性軌道(π*)に遷移し,励起一重項(S1)状態となる.S1状態は不安定であり, 10-8~10-7秒でπ*軌道電子のスピンが逆転し,スピンが平行な2つの不対電子をもつ,よりエネルギーの低い三重項励起状態に移行する.これが三重項クロロフィル(3Chl*)である. 3Chl*は遊離の状態では10-3~101秒でリン光を発し基底状態へ移行するが,酸化力が強く有機分子が存在すると速やかに水素を引き抜き酸化する(タイプⅠの光増感反応).また酸素分子(基底状態で三重項(3O2))にエネルギーを転移し,酸化力の強い一重項酸素(1O2)を生成する(タイプⅡの光増感反応). 3Chl* + 3O21Chl(基底状態) + 1O2
 クロロフィルタンパク質では3Chl*および1O2は,クロロフィル分子に隣接するカロテノイドにより速やかに消去される.チラコイド膜でタンパク質に結合しているクロロフィルが励起されると,S1励起状態から(1)別のクロロフィル分子に励起エネルギーを転移(アンテナクロロフィルの場合), (2)分子内電荷分離状態へ移行(反応中心クロロフィルの場合), (3)3Chl*へ遷移,あるいは(4)熱放出を伴い基底状態へ移行する.葉緑体の過還元状態やDCMUによる電子伝達阻害で(2)が阻害されると,光化学系Ⅱ反応中心での電荷再結合によって3Chl*生成が促進され,光化学系Ⅱの光失活の原因となる.遊離のクロロフィル分子は(1)および(2)が生じないため3Chl*となる確率が高く,生体にとって危険である.
 三重項クロロフィルは,特徴的な電子スピン共鳴(ESR)シグナルを示すので,ESRによって検出可能である.

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:10