光化学系Ⅰの長波長蛍光[PSI far-red fluorescence]

 室温では光化学系Ⅰのクロロフィルの蛍光収率は,光化学系Ⅱに比べて著しく低いため,葉もしくは葉緑体に光照射して得られる蛍光はほとんど光化学系Ⅱのクロロフィル由来のものである.しかし,-200℃程度まで温度を下げると685 nm 付近に極大をもつ蛍光成分に加えて, 720~750 nm に極大をもつ蛍光が出現する(→低温蛍光スペクトル).この蛍光は光化学系Ⅰ由来であるため,光化学系Ⅰの長波長蛍光と呼ばれる.この長波長蛍光は少なくても2成分から成り,その蛍光発光極大値から, F735とF720に分けられる. F735は光化学系Ⅰのアンテナ複合体LHCI-730より出される蛍光であり(→光化学系Ⅰアンテナ色素タンパク質複合体),一方,F720は光化学系Ⅰ反応中心複合体より出される蛍光である(→光化学系Ⅰ反応中心コアタンパク質).これらの蛍光を出すクロロフィルaは,二量体もしくは三量体を形成しており,そのため吸収スペクトルの極大は長波長側(700~710 nm)に存在する(→長波長アンテナ).励起エネルギーはエネルギーレベルの低いこれらのクロロフィルにいったん集まり,次いで他のアンテナクロロフィルを経て反応中心へと伝達されると考えられる.低温でこれらの蛍光が現れるのは,これらのエネルギーレベルの低い長波長アンテナに集まった励起エネルギーが,エネルギーレベルの高い普通のアンテナクロロフィルに低温では逆行できないためと考えられる.

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:42:59