光の情報(強さ,入射方向,波長など)に従って葉緑体が細胞内での配置や存在場所を変える現象をいう.一般的には青色光によって誘導される.弱光(数W m-2 s-1以下)下では葉緑体は葉の表面側に集合し,強光(10 W m-2 s-1以上)下では葉緑体は光を避けて光と平行な細胞壁面に逃避する.前者を弱光反応または集合反応,後者を強光反応または逃避反応という.弱光反応は光合成の効率を上げ,強光反応は光傷害を避けるという生理学的意義がある.特に木漏れ日の多い林床の植物には重要な生理現象である.日当りの良い環境で育った葉では光の強弱に関わらずほとんどの葉緑体が強光反応型の分布をしており,葉緑体運動の効果は低い.
シロイヌナズナでは,青色光受容体であるフォトトロピン1と2 (phot1, phot2)が弱光反応の受容体であり,強光反応の受容体はフォトトロピン2(phot2)である.シダ,コケ,緑藻などではフォトトロピンが仲介する青色光依存的な葉緑体光定位運動のみならず,フィトクロムあるいはフィトクロムとフォトトロピンが融合したネオクロムを介した赤色光に依存した葉緑体光定位運動も観察される.夜間,葉緑体は強光反応型の分布をする場合が多いが,植物の種類や組織の違いによって細胞全体に分散する場合や細胞の下側に集まる場合もある.
葉緑体の運動様式としては,細胞膜と葉緑体周縁部の間に重合される葉緑体運動に特化したアクチン繊維によって移動するのが一般的であるが、ヒメツリガネゴケや緑藻などでは,微小管系に依存した運動が知られている.フシナシミドロのように,光照射された場所の原形質糸が分布状態を変えて葉緑体が動けなくなる様式や,オオセキショウモ表皮細胞のように,光の明暗によって運動速度が変わり,明所で速度が低下することによって集合する様式などもある.