鉄イオン欠乏が植物や藻類に与えるストレス.鉄は地殻中で4番目に多量に存在する元素であるが,ほとんどが生物の利用できない水に溶けない酸化型化合物として存在する.このため,鉄イオンはフェレドキシンなどの鉄硫黄タンパク質やシトクロムなどを構成する生物にとって必須の元素であるにもかかわらず,植物や藻類は常に鉄イオン欠乏環境下に曝されている.たとえば地球環境に大きな影響を与える海洋における藻類の光合成生産は鉄イオンの供給によって律速されているとの報告もある.光合成生物は種々の鉄イオン輸送体をもっており,これらによって必要な量の鉄イオンを摂取しているが,摂取量が不足したときは鉄イオンストレスによって種々のタンパク質の合成が誘導される.シアノバクテリアにおいてはisiAとisiB (iron stress in-duced)遺伝子がコードする鉄イオンストレス誘導性クロロフィル結合タンパク質とフラボドキシンが合成される.前者は光化学系を安定化させ,後者はフェレドキシンの代替としての役割を担う.また,鉄イオン輸送体をコードする遺伝子の多くは鉄イオンストレス下で発現が誘導される.