光過剰環境で生ずる活性酸素種によって酸化,修飾,分解され光阻害をもたらす分子の総称.活性酸素種によりチラコイド膜光化学系ⅡのD1タンパク質(psbA)や光化学系Ⅰの反応中心(psaB)は失活/分解される.シアノバクテリアでは活性酸素種によりタンパク質翻訳が阻害され,D1タンパク質の修復が阻害される.光化学系Ⅱの光阻害は初期に生じ,積極的に光エネルギー利用能を低下させ,さらなる活性酸素種の生成や光化学系Ⅰの失活を回避するための機構であると考えられる.ストロマの還元的ペントースリン酸回路(カルビンサイクル)のフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ,グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ,ホスホリブロキナーゼ,セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼは,分子内に存在するフェレドキシン/チオレドキシン系による光調節のためのシステイン残基がH2O2により酸化され,ジスルフィド結合の形成による構造変化により失活する.しかし,藻類のカルビンサイクルの酵素は光調節のためのシステイン残基が欠損しているかもしくは周辺の構造が異なっているため失活を受けにくい.上記の還元的ペントースリン酸回路(カルビンサイクル)を構成するチオール酵素以外にも,プロテオミクスの手法によりチオレドキシンと相互作用するタンパク質が数多く同定されており,これらも活性酸素種の標的分子となりうる.一方,アスコルビン酸ペルオキシダーゼはH2O2によってアスコルビン酸濃度が低下すると失活する.また, Rubisco (ルビスコ)の大サブユニットもヒドロキシラジカルによって直接的に断片化される.これらの活性酸素種による初期標的分子の酸化失活で,光エネルギー利用能の低下,活性酸素種の生成量の増加,消去能の低下が生じ,活性酸素種による他の細胞成分(色素,膜脂質,タンパク質, DNAなど)の酸化,修飾,分解が進み,可視傷害が見られるようになる.