還元的ペントースリン酸回路(カルビン回路)による光合成炭素代謝は,光エネルギーを利用して電子伝達系で生成されたATPと*NADPHを使ってRubisco(ルビスコ)によって固定されたCO2を糖に還元する一連の反応である.夜間には光によるATPとNADPHの供給が止まるので,還元的ペントースリン酸回路は機能状態に保たれる必要はない.そのために,光合成炭素代謝に関連する酵素のうち, *NADP依存グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(NADP+-GAPDH),フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(FBPase), *セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ(SBPase)およびホスホリブロキナーゼ(PRK), Rubisco, ピルビン酸・リン酸ジキナーゼ, NADP-リンゴ酸デヒドロゲナーゼなどは日中には光合成に十分な活性を示すが,夜間には著しくその活性が低下する.光による酵素の活性化のメカニズムはいくつか提唱されており,光照射に伴うストロマpHの変化,ストロマMg濃度の上昇,酸化還元状態の変動,介在タンパク質による調節などがある.光照射により,ストロマのpHは7から8以上に上昇し,チラコイドからストロマへとMg2+が放出される.これらの上昇が,還元的ペントースリン酸回路の酵素の活性化をひき起こす場合もある. Rubiscoは,RubiscoアクチベースやCO2とMg2+による活性化を受ける.
還元的ペントースリン酸回路構成酵素の中で,NADP+-GAPDH, FBPase, SBPaseおよびPRKはチオール調節酵素と呼ばれ,ホウレンソウでは明暗の活性比は10~40倍にもなる.チオール調節酵素は,分子内に存在するシステイン残基のSH基が,夜間,酸化されて分子内にジスルフィド結合を形成し,サブユニット間の構造が変化し,失活する.光照射下ではチラコイド膜上の光化学系Ⅰで生じた電子により還元されたフェレドキシン分子から,フェレドキシン-チオレドキシンレダクターゼ,チオレドキシン,チオール調節酵素へと電子が受け渡され,チオール調節酵素分子内のジスルフィド結合を還元して酵素を活性化させる.これは, Buchananらが発見した葉緑体酵素の光活性化のメカニズムで,フェレドキシン-チオレドキシン系と呼ばれる.このように,光の有無によって酵素活性を調節することにより,明暗での炭素代謝調節を行っている.ATPとNADPHを使えない夜間にRubiscoの基質となるリブロースビスリン酸の合成は無駄であり,夜間,酸化的ペントースリン酸回路で生じるリブロース5-リン酸を核酸合成などに利用するためにPRKが失活されていることは合目的的である.さらに、酸化的ペントースリン酸回路の分岐点にあるグルコース6-リン酸脱水素酵素(G6PDH)もチオール調節酵素であるが、この酵素は酸化されると活性化され、夜間の回路の機能を支えている.このように,酵素の光活性化機構は,夜間の炭素代謝に必要としない酵素反応を抑制させるメカニズムの一部でもある.フェレドキシン/チオレドキシン系を介した酵素の光活性化機構は原核藻類(シアノバクテリア)および真核藻類(クラミドモナス,ユーグレナなど)には存在せず,高等植物が進化過程で獲得したものであると考えられる.