クロロフィルの分解[chlorophyll degradation]

 クロロフィルは光合成にとって重要な色素だが活性酸素種を作り出す危険な分子でもあるため,老化時など不要になった場合には速やかに分解される.クロロフィルの分解はその中心金属であるマグネシウムの離脱から始まるが,クロロフィルbからは直接マグネシウムを引き抜くことはできない。そのため,クロロフィルbはクロロフィルaに転換された後で分解される.その経路は下記の通りである. クロロフィルbがクロロフィルb還元酵素(NYC1NOL) によって7-ヒドロキシメチルクロロフィルaに転換され,さらに7-ヒドロキシメチルクロロフィルa還元酵素(HCAR) によってクロロフィルaに転換される.次に,クロロフィルaの中心金属であるマグネシウムがマグネシウムデケラターゼ(マグネシウム脱離酵素)活性を持つSGR(STAYGREEN, 老化時にも緑が保たれる変異株の原因遺伝子)によって除去されてフェオフィチンaになる.フェオフィチンaのフィチル鎖がフェオフィチナーゼ(PPH)によって切断され,フェオフォルビドaになり,さらにフェオフォルビドaオキシゲナーゼ(PAO)によって酸化的に開裂され,開環テトラピロールであるRCC(red chlorophyll catabolite,赤色クロロフィル分解産物)になる.RCC のC15/C16 二重結合がRCC 還元酵素(RCCR)によって単結合に還元され,pFCC(primary fluorescent chlorophyll catabolite,初期蛍光性クロロフィル分解産物)に変換される.一部の pFCC はTIC55によってC32位に OH基が付加され,ヒドロキシ pFCC となる.ここまでの反応は葉緑体で行われる. pFCC とヒドロキシ pFCCの一部は,葉緑体から細胞質に輸送された後,小胞体膜に存在するシトクロームP450酵素(CYP89A9)によって1,19-ジオキソ型の分子((hydroxy-) pDFCC)に転換される.これらpFCC類は,C82-カルボメトキシ基が脱メチル化されることでFCCに転換される.上記の反応によって合成された様々な pFCC と FCC は細胞質から液胞に輸送され,液胞の低いpHによって異性化が起こり,自発的にNCC(nonfluorescent (dioxo) chlorophyll catabolite,非蛍光性クロロフィル分解産物)に変換される.上記のヒドロキシ化や脱メチル化は,すべての分解産物で起こるわけではない.また,ある分解産物には糖が追加される.したがって,最終的な分解産物は多様であり,多くの種類の開環テトラピロール分子が知られている.また,蓄積する分解産物の種類と組成は生物種によって異なっている。これらの開環テトラピロールがクロロフィル分解の最終産物なのか,モノピロールまで分解されるのかはまだ決着されていない.蓄積した開環テトラピロールが分解されたクロロフィルの量と一致しない場合もあるので,それらの分子がさらに分解されることも示唆されている.クロロフィルaとクロロフィルbの分解の最初の反応を担うSGRとクロロフィルb還元酵素は,遊離のクロロフィルとクロロフィルタンパク質複合体に結合したクロロフィルを基質にすることができる.老化時のクロロフィル分解では,これらの酵素はタンパク質と結合しているクロロフィルを直接触媒している.そのためSGRやクロロフィルb還元酵素の欠損株はStay greenの形質を示すと共に,クロロフィルタンパク質複合体の分解が抑制される.それとは逆に,SGRやクロロフィルb還元酵素の発現を誘導すると,クロロフィル分解と同時にクロロフィルタンパク質複合体の分解が始まる.長らくクロロフィルの分解は老化の最終的なプロセスと考えられてきた.しかしクロロフィル分解はエチレンやアブシジン酸などの植物ホルモンの合成を誘導するなど,多くの生理的な役割も担っている.

クロロフィル分解.png

関連項目


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