アスコルビン酸ペルオキシダーゼ[ascorbateperoxidase]

  EC 1.11.1.11. アスコルビン酸(AsA)を電子供与体としてH2O2をH2Oに還元・消去するH2O2-消去ペルオキシダーゼである(2AsA+H2O2→2MDA+2H2O)(MDA=モノデヒドロアスコルビン酸).アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)は植物,真核藻類のほか,ウシの眼球にも存在する.植物では葉緑体,細胞質のほか,ミトコンドリア,ミクロボディーにも存在する.ミクロボディー結合型APXは膜に結合するための疎水性ドメインをC末端にもち, APXの反応中心部分を細胞質側に向けてミクロボディー膜に結合している.ミクロボディー結合型APXは単量体で,可溶性の細胞質APX(cAPX)はホモ二量体で機能する.葉緑体には,ストロマAPX(sAPX)とチラコイド膜結合APX(tAPX)が存在する. sAPXとtAPXは別々の遺伝子にコードされている場合と,1つの遺伝子由来のmRNAが選択的スプライシングを受けて生じる場合があり,植物種によって異なる.また,tAPXとsAPXの比率は植物や葉齢によっても異なる.真核藻類のAPXは細胞質型APXである.葉緑体APXはアスコルビン酸を最も速く酸化するのに対し,cAPXは,アスコルビン酸よりピロガロールやグアヤコールを速く酸化する.また,葉緑体APXのアスコルビン酸に対するKm値はcAPXより低い.このように, cAPXに比べ葉緑体APXはアスコルビン酸をより特異な電子供与体として利用する.また,葉緑体APXは低濃度のアスコルビン酸中では約15秒で活性が半減するが, cAPXの半減期は数百倍長い.これは,APXが等モルのH2O2と反応して生じる中間体Compound Ⅰ(CompⅠ)のH2O2に対する安定性の違いによる.このため,APXの精製や活性測定の試料調製には常にアスコルビン酸の添加が必要である.
 APXはシトクロムcペルオキシダーゼグアヤコールペルオキシダーゼと同様,プロトヘムをもつヘムペルオキシダーゼであり,ヘムに配位するシアンやアジトなどによって阻害される.さらに,植物のAPXはSH基修飾試薬によって阻害される.しかし,ユーグレナAPX,グアヤコールペルオキシダーゼ,酵母シトクロムcペルオキシダーゼは阻害されない.ヘムペルオキシダーゼはアミノ酸配列から3つのクラスに分類されるが,APXは酵母のシトクロムcペルオキシダーゼと同じクラスⅠペルオキシダーゼである.ヘムペルオキシダーゼとしてAPXはH2O2のO-O結合を切断するのに重要な遠位ヒスチジン残基(エンドウ細胞質型でのHis42)とアルギニン残基(同Arg38)とともに,ヘムに結合している近位ヒスチジン残基(同His163)をもっている.ほとんどのAPXは,植物のグアヤコールペルオキシダーゼと異なり,シトクロムcペルオキシダーゼのTrp51, Trp191と相同な位置にトリプトファン残基(同Trp41, Trp179)をもっている.Trp179は立体構造的には近位ヒスチジン残基に重なった位置にある.APXがH2O2によって二電子酸化されると,ヘムがFe(Ⅲ)からFe(Ⅳ)=Oに酸化され,さらに残りの一電子酸化によってポルフィリンπ-カチオンラジカルが生ずる. APX Comp Ⅰの吸収およびEPRスペクトル解析から,ポルフィリンπ-カチオンラジカルが生じた後, Trp179がトリプトファンラジカルに酸化され安定なComp Ⅰ*になると考えられる.一方,ヒドロキシウレア,p-アミノフェノールなどは直接APXを失活させることはないが,H2O2とAPXにより酸化されて生ずるこれらの化合物のラジカル種は, APXを失活させ,APXの自殺基質となる

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:42:59