EC 1.8.5.1.アスコルビン酸の二電子酸化物であるデヒドロアスコルビン酸(DHA)を,還元型グルタチオン(GSH)を電子供与体としてアスコルビン酸(AsA)に還元する(DHA+2GSH→AsA+GSSG)酵素.この反応で生ずる酸化型グルタチオン(GSSG)を還元するグルタチオンレダクターゼ(GR)と共役して, DHARは植物体内でアスコルビン酸を再生している.分子量は約2.5万,金属を含まない単量体のチオール酵素で,SH基修飾試薬によって阻害される.この阻害はDHAの添加によって抑制される.
ホウレンソウ葉緑体DHARはC-X-X-Cのモチーフをもち,N末端側に位置するシステイン残基が活性には必須であるが,C末端側に位置するシステイン残基は,セリン残基に置換されたDHARも存在するため,その役割は不明である.このモチーフは,チオールトランスフェラーゼやグルタレドキシンなどにもあり,これらもDHAのGSHによる還元活性を示す.しかし,これらのタンパク質によるターンオーバーへの寄与は植物DHARの1%以下であり, DHAに対するKm値も1桁高い.このように,植物のDHARは,既存のタンパク質のなかではGSHによるDHA還元活性が最も高い.
植物において, DHARは葉緑体と細胞質に存在し,細胞質DHARは,非光合成組織にも存在する.葉緑体ではストロマとルーメンに局在し、前者がwater-waterサイクルにより酸化されたアスコルビン酸を,後者がビオラキサンチンデエポキシダーゼ反応により酸化されたアスコルビン酸を,それぞれ再生する系として機能している.これらのDHARの酵素的性質は,葉緑体DHARが細胞質DHARよりも熱に対する安定性が高い以外,ほとんど同じである.耐熱性のDHARが欠損した黄金ガジュマルは,直射日光に曝されると葉が黄化するが,野生株は緑を保っている.このことはDHARが植物の光傷害からの防御に機能していることを示している.