クロロフィル合成系において,光に依存したプロトクロロフィリドのD環の還元反応を触媒し,クロロフィリドaを生成する酵素.原核光合成細菌を除き,シアノバクテリアから真核光合成生物までがこの酵素を有している.成熟タンパク質の分子量は3.5万~3.8万.本酵素は暗所で,基質であるプロトクロロフィリドとNADPHとの三量体を形成している.プロトクロロフィリドを光受容体として,光によってNADPHからプロトクロロフィリドヘの水素の転移が起こり,引き続いてクロロフィリドaが酵素から解離する.*被子植物は本酵素を有するが,光非依存型プロトクロロフィリドレダクターゼをもたないため,暗所でクロロフィルを生合成できない.
被子植物の暗所芽生えでは,本酵素はエチオプラスト中に大量に蓄積し,結晶格子状構造体であるプロラメラボディの主要な構成成分をなしている.当初,暗所芽生えが光により緑化する際,暗所で蓄積していた本酵素の活性,タンパク質量および転写産物量が急速に減少・消失するという,クロロフィル合成とは相反する消長を示すことが知られていたが,その生理機能の詳細について不明であった.その後,光照射後も発現を維持あるいは増加するアイソザイムの存在や,植物種により本酵素が光に対して異なる発現制御を受けることが明らかとなった.現在,暗所で蓄積する本酵素は,光照射に伴うプロトクロロフィリドからの活性酸素種の発生を防御し,速やかにプロトクロロフィリドをクロロフィルへと変換させるために機能し,また光照射後も発現を維持・増加する酵素が,引き続くクロロフィル合成を担っていると考えられている.