光に依存せずにプロトクロロフィリドのD環C17=C18二重結合を立体特異的に還元してクロロフィルaの直接の前駆体であるクロロフィリドaを生成する酵素で,光合成生物の暗所におけるクロロフィル合成能を決定づけている.本酵素は,光依存型プロトクロロフィリドレダクターゼと同じ反応を触媒するが,その構造と反応機構はまったく異なる.chlL(bchL), chlN(bchN)およびchlB(bchB)の遺伝子にコードされる3つのサブユニットから構成されており,各サブユニットは,ニトロゲナーゼの各サブユニット(nifH, nifD, nifK遺伝子産物)と一次構造上有意な類似性を示すことから,ニトロゲナーゼと類似した構造と反応機構を有すると推察された.生化学的解析および結晶構造解析によりこの推察は実験的に支持されている.すなわち,ChlL(BchL)二量体であるL-タンパク質が,フェレドキシンなどから得た電子を,ATPの加水分解と共役して, ChlN(BchN)とChlB(BchB)のヘテロ4量体であるNB-タンパク質へと移し最終的に基質が還元される.この一連の電子伝達は,L-タンパク質の[4Fe-4S]クラスター(ニトロゲナーゼFeタンパク質と同じく,各プロトマーの2つのシステインにより二量体の界面に保持される)から,NB-タンパク質の[4Fe-4S]クラスター(3つのシステインと1つのアスパラギン酸で保持され,NBクラスターと呼ばれる)を経由し,プロトクロロフィリド分子に到達し,基質ラジカル(プロトクロロフィリドラジカル)を生じ,最終的にプロトン転移と共役して二重結合を還元し反応が完結する.光合成細菌Rhodobacter capsulatusのDPORのNB-タンパク質-プロトクロロフィリド結合型の結晶構造解析により,反応の立体特異性が,プロトン供与体となる基質自身のプロピオン酸とBchBのアスパラギン酸の空間配置によって決定づけられると推察されている.また,海洋性シアノバクテリアProchlorococcus marinusのL-タンパク質-NB-タンパク質複合体の結晶構造も報告されている.阻害剤としてニコチンアミドが知られている.L-タンパク質の[4Fe-4S]クラスターが酸素によって速やかに破壊されるため,アッセイおよび酵素の精製には嫌気的条件が必要とされる.
この酵素は,光合成細菌,シアノバクテリア,緑藻,コケ,シダ,裸子植物に広く分布している.光合成細菌のバクテリオクロロフィル合成系では本酵素が単独のプロトクロロフィリド還元系であるが,シアノバクテリア,緑藻,コケ,シダ,裸子植物では,光依存型プロトクロロフィリドレダクターゼと共存している.真核光合成生物ではchlL, chlN, chlBの3遺伝子がすべて葉緑体DNAにコードされているが,暗所でのクロロフィル合成能を欠くとされる被子植物やユーグレナでは葉緑体DNAだけでなく核ゲノムからもこれらの遺伝子すべてが欠失していると思われる.