ブルーネイティヴゲル電気泳動[blue-native PAGE]

ブルーネイティヴゲル電気泳動法(BN(blue-native)-PAGE)はSchäggerらによってタンパク質複合体を非変性条件で分離するための電気泳動法として開発された。特に、光合成電子伝達鎖や呼吸鎖の膜タンパク質複合体の分離においてよく用いられている。

従来の非変性ゲル電気泳動法(Native-PAGE)との大きな違いはタンパク質サンプルにCBB (Coomassie Brilliant Blue)を添加した後に泳動を行うことである。添加するCBBの役割は大きく3つある。まず、CBBは強い負電荷をもつ化合物であり、CBBがタンパク質複合体の表面に結合することで、タンパク質の表面に強い負電荷を付加することが可能になった。これにより、中性条件でタンパク質複合体を泳動することが可能になった。古典的な非変性ゲル電気泳動法ではpHを弱アルカリ性にすることで、タンパク質の表面電荷を負に荷電させていた。この条件は、多くのタンパク質にとって非生理的であるため、タンパク質複合体が解離・失活しやすくなること、また、一部の酸性タンパク質が負に荷電されないことなどが問題であった。それに対し、BN-PAGEではCBBをタンパク質の表面に結合させることで、この課題を解決した。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)においては、タンパク質にSDSを結合することで負電荷を荷電させていることから、この点だけを見れば、ブルーネイティヴゲル電気泳動法はSDS-PAGEと似ているといえる。次に、CBBがタンパク質に定量的に結合することで、BN-PAGEにおけるタンパク質複合体の泳動度はタンパク質複合体の分子量とよく相関する。この点においても、BN-PAGEはSDS-PAGEと似ているといえる。一方で、従来のNative-PAGEにおいては、泳動度はタンパク質複合体の分子量だけでなく、タンパク質の表面電荷によっても大きく影響されるため、BN-PAGEと比べると、泳動度と分子量との相関は低い。最後に、タンパク質複合体の表面へのCBBの結合はタンパク質複合体の安定性を高める作用があると考えられている。SDS-PAGEにおいては、SDSは強力な変成作用を持った界面活性剤であるため、タンパク質複合体を解離させてしまう。この点がBN-PAGEとSDS-PAGEとの大きな違いである。

BN-PAGEにおいて膜タンパク質を可溶化する際によく用いられる界面活性剤には、ドデシルマルトシド(dodecyl maltoside)が挙げられる。これはドデシルマルトシドが非イオン性の界面活性剤でありタンパク質複合体への変成作用が小さいためである。また、やはり非イオン性の穏和な界面活性剤として、ジギトニン(digitonin)が用いられることもある。

BN-PAGEでタンパク質複合体を分離した後、各タンパク質複合体のサブユニット組成を調べるために、二次元目のSDS-PAGEが良く用いられる。Immuno-blot解析やMS解析はBN-PAGEの後にすぐ行われることもあるが、二次元目のSDS-PAGEの後に行われることも多い。また、分離したタンパク質複合体の構造や活性が保たれていることを利用した、活性染色や単粒子解析(single particle analysis)等も行われている。

なお、BN-PAGEの変法として、Clear-Native(CN)-PAGEという泳動法がやはりSchäggerらによって開発されている。このCN-PAGEではCBBの代わりに陰イオン性界面活性剤のsodium deoxycholateを用いることで、タンパク質表面を負に荷電する。CN-PAGEはタンパク質へのCBBの結合が次の実験の妨害になる場合に良く用いられるが、sodium deoxycholate の添加は、CBBの添加と異なり、タンパク質複合体の安定性の向上には寄与しないと考えられている。


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:40