緑藻(広義)の1属.単細胞不動性(ときに群体),球形で細胞壁に覆われる.葉緑体は1個,ふつうカップ形,2枚の皿形デンプン鞘で囲まれ2重のチラコイドが貫通したピレノイドをもつ.クロロフィルa, b,ルテイン,ビオラキサンチン,ロロキサンチン,β-カロテンをもつ.またアスタキサンチンやカンタキサンチンをもつことがある.少なくとも一部は従属栄養が可能.自生胞子形成によって無性生殖を行う.有性生殖は未知であるが,ゲノム情報からはその存在(卵生殖?)が示唆される.複数種で核や葉緑体などのゲノム塩基配列が報告されている.淡水域に生育し,また繊毛虫やアメーバなどの共生藻となるものもいる.
古くは遊走細胞を欠きカップ形葉緑体をもつ単純な形態の緑藻の多くがクロレラ属に分類されていた.しかし微細構造,生化学的特徴,さらに分子系統学的研究からクロレラ属としてまとめられていた緑藻は多系統群であることが示され,現在ではさまざまな属に分けられている(表1).狭義のクロレラはトレボウクシア藻綱クロレラ目に属するが,別属に移されたものの中には別綱(狭義の緑藻綱)に属するものもいる.
培養が容易で比較的増殖がよいため実験材料として用いられ,また実用的な大量生産に用いられているものもある.ただしクロレラの学名については上記のような経緯があり,実験・応用に用いられているものの中には既にこの属から外れているものも多い.光合成研究の初期には,エマーソン,ワールブルク,田宮,カルビンらによって実験材料として用いられ,還元的ペントースリン酸回路やエマーソン効果の発見,光合成単位の概念の研究に寄与した.
表1. クロレラ属に分類されていた主な種とそれらの現在の学名
旧学名 | 現在の学名 (※1) |
※1ただし株保存施設での同定が当初から誤っていた場合は,この対応から外れることもある.※2例えばChlorella pyrenoidosaとよばれていた株の中には,Chlorella sorokiniana, Auxenochlorella protothecoides, Graesiella emersonii, Coelastrella vacuolataに相当するものがある.詳細はChampenois et al. J Appl Phycol 27, 1845–1851 (2015). https://doi.org/10.1007/s10811-014-0431-2 | |
Chlorella vulgaris, C. lobophora, C. sorokiniana | 変更無し(トレボウクシア藻綱クロレラ目) |
Chlorella pyrenoidosa | Auxenochlorella pyrenoidosa (※2) |
Chlorella kessleri | Parachlorella kessleri(トレボウクシア藻綱クロレラ目) |
Chlorella protothecoides | Auxenochlorella protothecoides(トレボウクシア藻綱クロレラ目) |
Chlorella ellipsoidea, C. saccharophila | Chloroidium ellipsoideum, C. saccharophilum(トレボウクシア藻綱ワタナベア群) |
Chlorella luteoviridis | Heterochlorella luteoviridis(トレボウクシア藻綱ワタナベア群) |
Chlorella mirabilis | Edaphochlorella mirabilis(トレボウクシア藻綱カワノリ目) |
Chlorella emersonii | Graesiella emersonii(緑藻綱ヨコワミドロ目) |
Chlorella fusca | Scenedesmus fuscus(緑藻綱ヨコワミドロ目) |
Chlorella fusca var. vacuolata | Coelastrella vacuolata(緑藻綱ヨコワミドロ目) |
Chlorella zofingiensis (Muriella zofingiensis) | Chromochloris zofingiensis(緑藻綱ヨコワミドロ目) |
Chlorella homosphaera | Mychonastes homosphaera(緑藻綱ヨコワミドロ目) |