海洋の一次生産は真光層の植物プランクトン群集が大部分を担い,底生あるいは付着性の海藻・海草群集による生産は数%以下と見積もられている.特に外洋域ではシネココッカスやプロクロロコッカスなどのきわめて微小なプランクトンの寄与が大きい.近年の推定では,地球全体の純一次生産の約半分,すなわち40~60 Pg-C/年(P=ペタ,1015)を海洋が占める.海洋の一次生産量の推定値は,測定法とともに変転してきた.初期の酸素法では年間100 Pg-C を越えるという推定が出され,陸上を大きく上回ると見なされたこともある.その後,14C法(14C標識炭酸化合物を用いた二酸化炭素固定の定量)が導入されると,一転して推定値は10分の1程度になり,陸上の一次生産の半分以下という見積もりになった14C法は高感度であるが,様々な問題点が指摘されている.特に採水や培養実験中の微量重金属汚染が著しい過小評価の原因であったとする見解が有力である.重金属汚染を防ぐいわゆるクリーンテクニックの導入とともに14C法による推定値は近年再び高めになってきた.このほかに再生生産を除いた新生産(または移出生産)について,中深層の酸素消費速度や真光層の溶存酸素の季節的過飽和形成速度から推定する方法もある.また人工衛星リモートセンシングによる水色データからクロロフィル濃度を算出し,現存量と一次生産の詳細な地理的分布が推定されるようになった.
海洋の一次生産の分布や季節変化は,光や水温よりも窒素やリンなどの栄養塩類供給量の影響を強く受けるという特徴がある.湧昇域や沿岸域が高く,また温帯域では春のブルームの効果が大きい.寒帯・亜寒帯域の一部や赤道湧昇域では,鉄の供給が一次生産の限定要因となっていることが近年になって示された.また生産者の現存量に対して一次生産量が相対的に高いのも特徴で,植物プランクトンが速やかに捕食されてターンオーバーが速いことを反映している.炭素循環における海洋の役割について,吸収源として重要かどうかの論争があり,大気・海洋間の二酸化炭素収支の研究が活発に行われている.海洋表層の溶存二酸化炭素分圧は光合成活性の影響を強く受け,したがって大気・海洋間の二酸化炭素の交換量にも影響を与える.