タンパク質(鉄硫黄タンパク質)に存在する非ヘム鉄の一種,鉄硫黄センターともいう.多くはシステイン残基のSHを介してタンパク質に結合しているが,配位子としてヒスチジン残基やアスパラギン酸残基が関与するものもある.鉄と硫黄の数により,[2Fe-2S]型,[3Fe-4S]型,[4Fe-4S]型に分けることができる.このほか,ニトロゲナーゼのPクラスター([8Fe-7S]型)などがより複雑な鉄硫黄クラスターとして知られている.Fe2+とFe3+の間の変換により一電子酸化還元を担う.クラスターの種類,配位する残基,周囲のタンパク質環境により酸化還元電位は–500mVから300mVまで変化し,さまざまな生化学反応において電子供与体もしくは電子受容体として機能する.光化学系Ⅰの鉄硫黄クラスター(鉄硫黄クラスターX,鉄硫黄クラスターA,鉄硫黄クラスターB)やリスケ鉄硫黄クラスターなど,光合成電子伝達系の成分および酵素の酸化還元中心として重要である.酸化還元以外にも,ルイス酸として酵素活性に関与する場合(アコニターゼ),ビオチンやリポ酸の硫黄原子の供与体,タンパク質の構造維持(ATP依存型DNAヘリカーゼ),酸化還元状態のセンシングと転写調節(FNR, SoxR)など酸化還元以外の機能を担う例も多数知られている.