光合成の活性が過剰な光照射によって低下する現象,すなわち光阻害のうち,その阻害部位が光化学系Ⅰであるものをいう.葉緑体やチラコイド膜への光照射などによる光化学系Ⅰの光阻害は1950年代から報告されていたが, in vivoでの光化学系Ⅰの選択的な光阻害は1994年に低温感受性植物であるキュウリの生葉の低温光傷害において初めて報告された. in vivoでの光化学系Ⅰの光阻害は,10℃以下の低温で,酸素および活性のある光化学系Ⅱの存在下でのみひき起こされる.阻害に必要な光量子密度は,強光を必要とする光化学系Ⅱの光阻害とは異なり, 100 μmol m-2 s-1程度の弱光で十分である.低温感受性植物の低温での光合成の失活の温度依存性は,光化学系Ⅰの光阻害の温度依存性によってよく説明できる.低温耐性植物においても光化学系Ⅰの光阻害はみられるが,この場合は通常光化学系Ⅱも同時に阻害される.チラコイド膜などにおけるin vitroの光阻害においては,温度によらずに阻害がみられる.
光化学系Ⅰ内部での初発阻害標的部位は,電子受容体として働く鉄硫黄クラスターであるが,照射光強度によっては反応中心であるP700も破壊される.また,阻害は, P700およびアンテナクロロフィルの結合サブユニットであるPsaAおよびPsaBサブユニットの分解を伴う.阻害のメカニズムは,以下のようであると考えられている.まず,光還元された鉄硫黄クラスターによって酸素分子がスーパーオキシドに還元され,スーパーオキシドから過酸化水素が生じる.この過酸化水素と鉄硫黄クラスター中の還元型の鉄との間のフェントン反応によってヒドロキシルラジカルが生じ,この反応性が高いヒドロキシルラジカルが鉄硫黄クラスターを破壊し, PsaA/Bサブユニットの分解につながると考えられる. PsaA/Bサブユニットは,光化学系Ⅱの光阻害におけるD1タンパク質のように代謝回転が速くないので,光化学系Ⅰの光阻害からの回復速度は非常に遅い.2010年ごろからは,低温感受性植物のみならず,低温耐性植物においても,光防御系の遺伝子に変異が入っている場合は光化学系Ⅰの光阻害が見られることが報告されている.特に変動光環境(自然環境のように光強度が短時間に変化する環境)下においては,光化学系Ⅰの光阻害が引き起こされることが明らかとなっている。