湖沼の一次生産は沖帯の植物プランクトンと沿岸における水草および付着藻類の光合成が大部分を担うが,それらの相対的重要性は湖沼の形状によって異なる.一次生産者は藻類とシアノバクテリアが最も主要であるが,汽水湖などでは非酸素発生型の光合成細菌が優占する場合がある.浮遊する植物プランクトンの一次生産は光合成に必要な光強度にある有光層の中で行われるが,その生産量は主に水中の栄養塩類,特に不足しやすい窒素およびリンなどの供給量に支配されるので,富栄養化した湖沼で高い.しかし,これらの供給量が多い場合には,増殖したプランクトンにより光が吸収されて有効層が浅くなるため,水面面積当たりの生産量は栄養塩類の供給量ほどには大きくならない.水草や付着藻類の一次生産量の測定は,生産者の性状や現場条件に対応して工夫する必要がある.植物プランクトンによる一次生産量の測定では,研究目的に応じて湖水をインキュベートして実測する場合と水中クロロフィルa濃度や光強度などの環境条件をパラメータとした推定を行う場合に分けられる.実測の場合は明・暗ビンを一定時間水中につるして酸素や二酸化炭素の濃度変化を記録したり,放射性同位元素の14Cあるいは安定同位体13Cで標識された炭酸塩の取り込み速度を測定する.生産された有機物は湖沼の生物群集の食物連鎖を経由して,二次,三次生産量(動物体の生産)や湖底における有機物分解などを決定するので,物質循環や水産資源,生物群集の動態を理解する場合に一次生産はきわめて重要な生態系機能である.