光合成細菌[photosynthetic bacteria]

  光エネルギーを用いて水素や硫化水素と二酸化炭素(通常は重炭酸塩)存在下で光独立栄養的,あるいはコハク酸などの有機酸を利用して光従属栄養的に生育する細菌の総称.ただし,光栄養的に生育できない細菌種であっても光合成装置や光合成活性の一部を有している場合は光合成細菌と呼んでいる(→好気性光合成細菌).なお、水を電子供与体として光独立栄養的に生育するシアノバクテリア(藍藻)は,植物の葉緑体との類似性が際だって高いため,光合成細菌の範疇に含めないことが多い.すなわち,一般的な光合成細菌は水を電子供与体として利用できないので,光合成による分子状の酸素発生を伴わない.一部の光合成細菌は,好気呼吸および,硝酸塩やDMSO(ジメチルスルホキシド)などを電子受容体とした嫌気呼吸で生育することもできる.また,解糖系窒素固定能をもつものも知られている.
 16S rRNA の塩基配列による系統分類では,紅色細菌緑色硫黄細菌繊維状非酸素発生型光合成細菌(緑色糸状性細菌または緑色非イオウ細菌とも呼ぶ),およびヘリオバクテリアの4群に分けられてきた.近年,この4群の細菌に加え,アシドバクテリウム門に属するクロラシドバクテリウムと、ジェマティモナス門に属する種にも光合成装置の合成と活性が見いだされ,光合成細菌は6群あると見なされている.反応中心の型は,緑色硫黄細菌,ヘリオバクテリアおよびクロラシドバクテリウムにおいては光化学系Ⅰ型(鉄-イオウ型),紅色細菌,繊維状非酸素発生型光合成細菌およびジェマティモナスは光化学系Ⅱ型(キノン型)である.
 菌体の形状は,桿状,球状,卵状,らせん状,糸状など様々であり,二分裂法,出芽法によって増殖する.光合成生育のときは,紅色細菌は種によってベシクル状,チューブ状,ラメラ状などの複雑な内膜構造をとり,緑色硫黄細菌と繊維状非酸素発生型光合成細菌ではバクテリオクロロフィルの自己会合体であるクロロソームの構造をとる.光合成生育は示さないものの,クロラシドバクテリアもクロロソームを合成する.なお、ヘリオバクテリアは特別な内膜構造もクロロソーム構造ももたない.光合成細菌が合成するクロロフィルは,バクテリオクロロフィルabc degであり,一部の光合成細菌は亜鉛-バクテリオクロロフィルaを合成する.カロテノイド類は種に特有なものも含め多種類にのぼるが,主なものは,スフェロイデンスフェロイデノンスピリロキサンチンオケノンなどである.
 光化学系Ⅱ型の反応中心をもつ光合成細菌の電子伝達系は,反応中心から放出された電子がキノンプールシトクロムbc1複合体cシトクロムを経て再び反応中心に戻る循環的電子伝達系である.緑色硫黄細菌では,硫化水素などの硫化物からの還元力がシトクロムbc1複合体を経て反応中心を還元する経路が存在する.これらの電子伝達系に共役してATPが合成される.CO2固定系は多くの場合還元的ペントースリン酸回路であるが,緑色硫黄細菌では還元的TCA回路(TCA回路の逆行)でCO2を固定している.
 生理・生化学的な性質(光合成色素としてクロロフィルaを含み,光合成によって分子状酸素を発生する,など)は異なるが, 16S rRNA の塩基配列比較に基づく系統関係を重視して,シアノバクテリアを光合成細菌に含める場合がある.その場合は,光合成細菌は7群に分類されることになる.また,系統的には異なるが,光のエネルギーを使ってATP合成を行うハロバクテリアを広義の光合成細菌に含めることがある.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:09