D1/D2/シトクロムb559複合体[D1/D2/cytochrome b559 complex]

  電荷分離能を持つ酸素発生型光合成の最少の光化学系Ⅱ複合体で,別名は光化学系Ⅱ反応中心複合体.難波と佐藤*1(1987)によりホウレンソウ葉緑体のチラコイド膜より初めて単離され,現在では同様な色素およびタンパク質組成の標品(反応中心複合体)が,緑藻クラミドモナスやシアノバクテリアなどの材料から単離精製されている.この色素タンパク質複合体の化学的構成は非酸素発生型光合成を営む紅色細菌光合成反応中心と類似している.このため,この複合体の単離は酸素を発生しない光合成細菌の光合成と酸素を発生する藻類や植物の光合成との間の進化的関連性を直接示す決定的な証拠となった.
 D1/D2/シトクロムb559複合体は,紅色細菌の光化学反応中心の中核を成すLサブユニットおよびMサブユニットと相同性をもつD1タンパク質(psbA遺伝子産物)およびD2タンパク質(psbD遺伝子産物)を中心に構築されており,低分子量のタンパク質成分としてαおよびβサブユニット(それぞれ,psbEおよびpsbF遺伝子産物)より成るcytochrome(シトクロム)b559psbI遺伝子産物を含んでいる(真核生物では,これらの5つの成分はすべて葉緑体遺伝子にコードされている).この複合体は,色素成分として反応中心当たり6分子のクロロフィルa,2分子のフェオフィチンa,2分子のβ-カロテンを含んでいる(α-カロテンしか持たない種ではα-カロテン)。機能的には,一次電子供与体一次電子受容体(フェオフィチンa)との間の初期電荷分離反応の活性を保持している.この標品にはMn4CaO5クラスターおよび二次電子受容体(QAキノン電子受容体)、三次電子受容体(QBキノン電子受容体)として機能するプラストキノンが欠けているため,人工的電子供与体人工的電子受容体が存在しない条件下では,強光照射時に高い確率で初期電荷対が再結合してクロロフィルの三重項状態を形成する.

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関連項目


*1 Nanba & Satoh, Proc. Natl. Acad. Sci. , 84, 109-112, 1997

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